密かニッ「モンティ・パイソンの日」
大学生の頃、校舎の裏側にある公園でボーっとパンをかじってたことがよくありました。集う老人、はしゃぐ幼児、井戸端会議に夢中になる奥様方。特等席のベンチからみえる光景はのどかなもので、この世の楽園とさえ思えたものです…あのハトの一群さえ現れなければ!
都会のハトは獰猛です。彼らに目をつけられた食事中の気弱な大学生がその後どのような人生の末路を辿ったのか説明しなくとも分かるはず。最初はバンッ!とかエイッ!とか奇声を発することで撃退していたのですが、彼らは徐々に距離を縮めてくるばかり。このままいけば「せーの!」で一斉に飛び掛ってきて、当の僕の姿かたちなどすっかりなくなってしまうのではないかという不安すら抱きました。
すっかり嫌になった僕は、隣に座っていた友人Mにこう漏らしました。
「気が変になったと思われるかもしれないけど…いま、そこのハトが何の脈絡もなくボンッ!と突然爆発したら面白いのに、って考えてるんだよね」
こんなどうしようもない僕に友人Mが返してくれたコメントは画期的でした。
「お前はぜんぜん変じゃねえよ。大丈夫だよ。それにそんな発想、1960年代のイギリスでモンティ・パイソンがとっくに実践済みだよ」
最初はMが精一杯の優しさで僕を励ましてくれたのかと思ってましたが、その後彼の言葉が本当だったことが分かります。
It's !モンティ・パイソン・・・
英国生まれのコメディ界のビートルズ。世界が今だに追い越せない伝説の6人組。ジョン・クリーズ、テリー・ジョーンズ、グレアム・チャップマン、エリック・アイドル、テリー・ギリアム、それにあと一人・・・あの底抜けに明るく、とても愉快で、気の置けない、誰か。
アメリカ人のテリー・ギリアム(今では映画監督として有名)以外はみんなオックスフォード、ケンブリッジ出身といった超インテリ。哲学的でさえある切り口から紡ぎだされる彼らのスケッチ(コント芝居)は、あらゆる方面で脳内破壊を巻き起こし、その衝撃は抱腹絶倒どころか、世界中のファンが諸手をあげてとりあえず「It’s!!!」と絶叫してしまう、とにかくとんでもない影響力を持ったコメディ集団。
彼らの伝説は1967年にBBCで放送開始された“MONTY PYTHON'S FLYING CIRCUS”という番組で幕を開けたのだが、僕が初めてパイソンズに触れたのもこの中の1スケッチだった。
もう、爆発に次ぐ爆発。大自然に生きる動物たち(もちろん本物ではない)が何の脈絡もなく次々と爆発し、やがてオーケストラが恭しく「美しき蒼きドナウ」の演奏を始めるや、今度はその曲調にあわせ団員までもが次々にドカン!ドカン!と爆発していく。もはや時代の時差なくしてリアルタイムでこれを目撃していたなら自分はいったいどうなってしまっていただろうと顔が青ざめてしまうほどの衝撃体験。その日の晩は一睡も出来なかったことを記憶している(単に、翌日、大学のテストだったのだ)。
前置きが大変長くなったが、要は彼らモンティ・パイソンがいつしか映画にも進出した衝撃作『モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル』と、そのあまりの常識破壊ぶりをコンサバな連中が許容できず世界を巻き込んでの宗教論争にまで発展した『モンティ・パイソン/ライフ・オブ・ブライアン』の2作品が5月21日にDVDリリースされることを、つい昨日知った。
前者はアーサー王の聖杯伝説をパロディ化した上に、なぜか現代の殺人事件さえもが絡み合っていくという、とにかくシュールで奇想天外な豪腕ぶり。最近ではこの映画がミュージカルにも翻案されて見事トニー賞を受賞するなど、いまだモンティ熱に陰りが見られないことを証明した。
後者はキリストと同じ日に生まれた“ブライアン”という青年が、民衆に勘違いでなぜか救世主として担ぎ出されてしまう…という物語。この作品、長らく日本では版権の問題で「吹き替え版」しかお目にかかることが出来なかった。ただ、この吹き替え版も凄いシロモノで、パイソンズの声を担当したのが、納谷吾郎、広川太一郎、古川登志夫、山田康雄、青野武、飯塚昭三といった声優界のまさに巨匠たち。今回リリースされるDVDにはもちろん初の字幕版&吹き替え版どちらも収録されており(そうでなければリリースする意味がない!)、英国にまで行って原版を買ってしまった俺はいったいどうればいいんだ!と思わず怒り心頭する(しかしその後、とても穏やかな表情になって眠りにつく)くらいに大事件なわけなのです。
しかもこのDVDリリースにタイミングを合わせたかのように、5月21日深夜(日付的には22日)NHK-BS2にて映画版第3弾『モンティ・パイソンの人生狂想曲』が放送されます。正直、前2作に比べて笑いもインパクトも格段に落ちる作品ですが、まあ逆説的に言って前2作を目撃してしまった人ならばこちらも見逃さずにはいられない作品であることは間違いありません。
とにかくこの5月21日は、ひそかに“モンティ・パイソン祭り”な一日。もしも通勤途中で故意に変な歩き方をしていたり、必要以上に肘を突き出し「ちょんちょん」などとやってくる人がいたなら、もしかしてひょっとすると、ひょっとするかもしれません。ちなみに僕はそこまでの根性はありませんけれどニッ。
追記:世間がどれだけ盛り上がってるか銀座の街中を期待しながら歩いてみましたが、なんの変哲もない、ごくありふれた一日でした。
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