『ランボー 最後の戦場』
アジアの田園風景。水田をかき分け、兵士がおもむろに何かをばら撒いている。その一個が着水した瞬間に凄まじい水しぶきを上げる。手榴弾だ!岸には銃を突きつけられた幾多の村人たち。将軍の合図で地獄のダッシュが始まる。彼らは水田を突き進み手榴弾に触れずに対岸まで辿り着かねばならない。前方には手榴弾、背後には兵士。彼らは全力で走り出す…ひとりが弾を踏む。瞬時に人間が真っ赤な水風船と化して弾け飛ぶ。行くも地獄、留まるも地獄。ゲーム感覚で繰り広げられる虐殺風景。立ち止まって動けなくなる村人たち。背後から一斉射撃が降り注ぐ。結局彼らには死ぬ運命しか残されていなかった…。
かくも壮絶なシーンから幕を開ける『ランボー 最後の戦場』はこれまでのシリーズとはかなり雰囲気が違う。まるで通過儀礼のごとく次々と提示されるバイオレンスシーンの数々はもはやエンターテインメントとは一線を画した常軌の逸し方で観る者の心をえぐる。しかしこれは恐らく事実なのだ。世界のどこかで起こっている真実。82年の誕生以来アメリカ、ベトナム、アフガニスタンで転戦を繰り広げてきた『ランボー』シリーズ。それは殺し合いをやめるための戦いだったはずだ。しかし哀しいかな、人間の殺しあう性は有史以来まったく変わらない。
アフガンでの戦いから20年。ジョン・ランボーが最後の戦場として選んだのはミャンマーのジャングル地帯。(ちなみに映画の中では「ビルマ」と呼ばれるが、これはアメリカが軍事政権下で成立した「ミャンマー」を容認していないから。では日本政府は容認しているのか…?そこら辺に日本政府の非常に曖昧かつダークな姿勢が見え隠れするのだが、それはこの映画とはまた別の話だ。参照→ウィキペディア「ミャンマー」 )
タイの奥地でボート屋を営むジョン・ランボーは今やすっかり絶望している。『ロッキー ザ・ファイナル』でロッキーが再起を誓うまでが恐ろしく長かったように、今回のランボーも怒りが頂点に達するまでに時間を要する。その間にも村で虐殺が行われ、人権活動家たちが拘束され、彼らを救うために5名の傭兵部隊が編制されランボーのボートへと乗り込んでいく。
この5名+ランボー+ガイドの少年で人数はバッチリ。常套手段として『七人の侍』的な展開になるのか、あるいはこちらも壮絶極まりなかった『プライベート・ライアン』のような様相を呈していくのか。巧いやり方はいくらでもあったはずだ。しかし“あらゆる巧い手段”をみすみす手放して、ランボーは思考のタガが弾け飛んだかのように殺戮マシーンへと変わる。もはやアドレナリンも分泌されない。さきほどまで虐殺の限りを尽くしていた敵兵がいまや肉の塊となって崩れ落ちていく戦場の凄惨さを観客に痛いほど突きつける。殺らなければこっちが殺られる。そこには崇高なドラマ性など生じえない。戦場に愛情やぬくもりなど存在しないのだ。人が人を殺すというある種の思考停止状態に、その場の凄まじい臭気さえ伝わってきそうだ。
「これは観るのに苦痛を伴う映画です」
来日したスタローンは正直にそう語っている。
そこまでして軍事政権下の残虐性を告発したかったのか。確かにそれもあるだろう。と同時に彼は、80年代にアクションスターとしてシンボル化されてきた自分自身にひとり決着をつけようとしている。きっと20年間、時代の移り変わりを静かに見つめてきたのだろう。変わり行く破壊の意味、怒りの意味。自らをヒーローからひとりの人間へと帰還させたいとする想い。その実力行使として、いま、伝説としてフェイドアウトすることも可能だった『ランボー』シリーズをハリウッドの虚構性から奪還し、現代性の極地、リアリティの極地へと放り込むことでアップデート&ターミネートを図っているのだ。
確かに苦痛を伴う映画だし、心臓の悪い人は絶対に観てはいけない。僕自身、この映画はもう二度とは観たくないが、このシルベスタ・スタローンの映画人としての意欲には多くの人たちが瞠目すべきだと思う。
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ランボー 最後の戦場
監督・脚本・主演:シルベスタ・スターローン
出演:ジュリー・ベンツ、ポール・シュルツ、マシュー・マースデン、
グレアム・マクダビッシュ
(2008年/アメリカ)ギャガ・コミュニケーションズ
5月24日より日比谷スカラ座ほか全国東宝洋画系にてロードショー
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