« 『歩いても 歩いても』 | トップページ | 『BUG/バグ』 »

2008/06/30

『スピード・レーサー』

 『マトリックス』のウォシャウスキー兄弟による最新監督作『スピード・レーサー』。今回はモノクロームではなく極彩色の光源の中、やっぱり漫画みたいなカット割でレーシングカーを爆走させる。

 猛スピードで疾走中の車体を次々にシームレス(合成映像なのでワンカット撮影とは言えないが)で映し出し、いざレーサーの顔へとズームしたかと思うと、まるで時の流れが変幻自在であるかのように涼しげな表情がゆっくりとアップになってワイプのごとく真横へと流れていく。

 ストーリー的には取り立てて書き添えるべき謎もなければ、グッと興味をそそる展開もなく、ただもう積み上げられていく映像表現だけがこの映画の取り得。つまり本作を一言で言い表せば、それは『マトリックス』以降こんなことをやっていました的な研究発表会ということができるだろう。
 
 手を代え品を代え繰り出されるイリュージョンの嵐。前にもこんな映画あったな、と思い出す。あ、そうだ、ディズニーの『ファンタジア』だ。内容は全く違えど、音と色で紡ぎだされた映像詩のような部分は共通している。

 きっと他の映画監督ならばこのテイストで10分と間が持たないだろう。これをウォシャウスキー兄弟はなんと2時間15分もの世界に仕立て上げてしまっているのだから凄い。なんかよう分からんが、とにかく言い知れぬ映像の圧力に、観客はただただ客席にじっと座っているしか術がない。

 とまあ、こんな風に書いていたら誰も観にいかないんじゃないかと思えてきたので弁解するわけではないが、『スピード・レーサー』は時折イマジネーションがストーリーを超えるどころか、時速300キロで爆走するレーシングカーすらも余裕で抜き去っていく。とくにラストのゴール・シーンなんか、あまりの光線が放出され、具象ではなくどんどん抽象へ突き進み、遂にはアヴァンギャルドの領域にまで猪突猛進していく。

 あふれ出る想いが技術を凌駕する。そんなシーンに立ち会ったとき、なにかマジカルなことが勃発しているかのような興奮がこみ上げてくる。

 そして、親子が昔のレースVTRを観ながら一緒にワー!キャー!と興奮するシーンがあるのだが、このシーンを直視していると、もしかすると本作はウォシャウスキー兄弟の映画へのあふれる想いをそのままカーレーシングに置き換えた代物なんじゃなかろうかとさえ思えてくる。

 それに気づいた瞬間、なんだか『スピード・レーサー』のことが許せた。ああ、もう、好きにやっていいよ、ちゃんと見てるから。そう声をかけてやりたくなってしまった。

 人は何かに没頭しすぎると、周りのことがすっかり見えなくなってしまう。『マトリックス』の2部、3部でも同じことが感じられたが、『スピード・レーサー』はそれ以上だ。だからこそ、その商業主義を超えたあふれんばかりの情熱を、僕はただ無性に理解してあげたくなるのだった。

スピード・レーサー
監督:ウォシャウスキー兄弟
出演:エミール・ハーシュ、クリスティーナ・リッチ、ジョン・グッドマン、
スーザン・サランドン、マシュー・フォックス、真田広之、Rain
(2008年/アメリカ)ワーナー・ブラザーズ映画
7月5日よりサロンパス ルーブル丸の内ほかにて全国ロードショー

****************

------

TOP】【過去レビュー】【DIARY

|

« 『歩いても 歩いても』 | トップページ | 『BUG/バグ』 »

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/137483/41695083

この記事へのトラックバック一覧です: 『スピード・レーサー』:

« 『歩いても 歩いても』 | トップページ | 『BUG/バグ』 »