『BUG/バグ』
『エクソシスト』『フレンチ・コネクション』で有名なウィリアム・フリードキン監督が、トレイシー・レッツによるオフ・ブロードウェイを映画化。『BUG/バグ』を作り上げた。
たいていの映画は受け入れる容易があるのだが、正直、こんなに評価の分かれる作品は久しぶりだ。多分8割くらいの反応は「ひどすぎる!」「映画じゃない!」「駄作極まりない!」といったものだろう。でも僕は違った。批判を承知で言えば、これは見方によってはとんでもない傑作として許容しうる作品なのではないだろうか。
ジージーうるさい虫の声。鳴り止まない電話。壊れかけた電化製品のショート音。パラノイアは少しずつ侵攻していく。最初は気にならなかった些細なものがどんどんと精神を侵していく。誰かが監視してる?すべては陰謀?虫だ!家中に虫がいっぱいいる!しかも身体ん中に入ってきた!いますぐ、いますぐどうにかしてくれ!
・・・とこれほど絶叫に次ぐ絶叫を繰り返しながら、
何かが起こりそうなのに全然起こらない。
この静けさが逆に心を落ち着かなくさせる。そこにいるはずなのに、なかなか姿を見せない「虫」の存在。大局的な見方をすると、これはイラクの大量破壊兵器を想起させないこともない。いるのかいないのか分からない「虫」の存在に男女がヒステリーを起こしていく過程は、イラク戦争を前にどんどん暴走していくアメリカ、そしてそれに追随した世界の精神構造=パラノイアを“フィクション”という名の虫カゴごしにジッと観察しているかのようだ。
だが、「虫」の意味するところはそれだけに止まらない。僕らの生活に付き物の喜び、怒り、悲しみ、苦しみ、それらすべてに介在する多種多様な「BUG」が肥大化し、徐々に精神を疲弊させていく。
弱い男が虫の恐怖におびえ「虫がいっぱいだ!わーん!」と泣き叫ぶと、今度は女が「わー!本当に虫でいっぱい~!」と激しく同意しながら泣きじゃくる。しかし傍から見ると狂気以外の何者でもないこのシークエンスがふとした瞬間に「愛」でいっぱいに見える不思議。パラノイアに苦しむ男に、「そうだね、恐ろしいね」と同意してくれる大切な存在があること…それって実は、尊い愛の形なのかもしれない。
火を放て。彼らのがけっぷちの愛は炎と共に始まる。
たとえいま世界が終わろうとも、虫に満ちた二人の愛は永遠なのだ。
フリードキンはどうしようもなく不器用なラブストーリーを撮ってしまったようだ。
それこそが最大のBUG、ということは百も承知の上で。
BUG/バグ
監督:ウィリアム・フリードキン
出演:アシュレイ・ジャッド、マイケル・シャノン、リン・コリンズ
(2007年/アメリカ)ブロードメディア・スタジオ
7月5日、シアターN渋谷ほか全国順次ロードショー
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