『インクレディブル・ハルク』
かつてアン・リーが映画化して大コケした1962年生まれのアメコミ・ヒーローを、近年のヒーローブームにあやかるカタチで、再び大復活させたのがこの『インクレディブル・ハルク』だ。
心拍数が200に達すると巨大な「グリーンモンスター」に変身するという小回りの苦手そうなキャラに、ストーリー的な“インクレディブル”は期待できそうにない。でも、かといって本作が面白くもなんともないダメ映画ということでは決してなく、『トランスポーター』シリーズのルイ・レテリエ監督はむしろその逆風を逆手にとるほどの息もつかせぬエンタテインメントに仕上げている。
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『インクレディブル・ハルク』が前作の悪夢を払拭するかのようにアメリカで初日3日間で興収5453万8000ドルを叩き出し、世界的にも初登場1位を連発させているその魅力とはいったい何なのか?
それは他でもない、監督と役者による「はずれなし」のコラボレーションに尽きるだろう。
プロデューサーも今回は絶対に失敗のない布陣をそろえた。なにしろ主演を飾るのはあの名優エドワード・ノートンなのだ。出演作への積極的なコミットメントで知られる彼は、絶賛された『アメリカンヒストリーX』でも編集中に逃げ出した監督の代わりにイニシアチブを取り、本編完成まで最後まで立ち会ったという逸話を持つ。
ここしばらく大作への出演を控えていた彼が『インクレディブル・ハルク』に主演する。しかもキャラクター作りや脚本にもどんどんアイディアを提供しているという。それだけでも映画ファンにとってはちょっとした事件といっていい。
■タイトルバックの妙
オープニングを飾るタイトルバックが面白い事態を迎えている。といっても見せ方が巧いというわけではない。主人公のブルース・バナーが実験中に大量のガンマ線を浴び、凶暴なモンスターに変身してしまった経緯がすべてフラッシュバックで語られてしまうのだ。つまり「シンデレラ」でいえば、夜中の0時を過ぎて魔法が解けるところまでをダイジェストでお送りしました、ってところか。
これが意味するところは複雑だ。
本作を再始動するにあたり、アン・リー作『ハルク』との連続性を強調したくはない。かといって「ハルク誕生」から現在に至るまでの経緯を無視することも出来ない。
前作を生かさぬように、殺さぬように。おそらくこのような微妙なスタンスが、今回の新キャストによるたった数分間のタイトルバック(ダイジェスト)に込められているのだろう。
■物語が始まる。そして新たな敵が。
国外へと逃亡しブルース・バナーはブラジルにて隠遁生活を送っている。ヒクソン・グレイシーに怒りを抑える術を習い、昼は工場で技師として働き、夜は自宅で自らの治癒方法を求めて研究に暮れる。傍らにはいつも恋人ベティの写真が一枚。そして米軍が彼の存在に気づき包囲網を狭めてきたとき、バナーの運命は再び大きく動き出す…。
中でも注目なのが、巨大化したハルクに臆することなく果敢に立ち向かっていく特殊部隊の精鋭隊員だ。この狂気の男を『レザボア・ドッグス』『海の上のピアニスト』でおなじみのティム・ロスが演じている。
エドワード・ノートンに真っ向から勝負を挑むティム・ロス。この構図がまた興味をそそる。スーパーサイヤ人よろしく、さらなる強い敵を求めて戦場をさすらう彼は、この先いったいどういうことになってしまうのか。
とくに後半、『トランスフォーマー』に対抗するように繰り広げられる市街戦は、思わず「おいおい」って声が漏れてしまうほどの大迫力。相変わらずストーリーの面白みには欠けるが、露ほども美意識の見当たらない巨大なヒーローの肉弾戦をレテリエ監督の映像センスが何とか研磨し魅力を導き出している。
■ヒーロー映画商戦、第二章
おっと、あとひとつ忘れるところだった。
本作がヒットしたもうひとつの要因として、「マーベル・コミック」ヒーローのコラボレーションの可能性が挙げられるのではないか。
X-メン、スパイダーマン、ハルク、アイアンマン、ファンタスティック・フォー、エレクトラ、デアデビルなどなど。DCコミックスをキャラ数で圧倒するマーベルコミックスが、この先どれだけ「伝家の宝刀」=「コラボレーション」に踏み込んでいけるかが新たなファン層を巻き込む大きなポイントとなる。
今後はヒーロー映画商戦も第二章に突入する。ヒーローの世界も大変なのだ。株価が落ちると人気ヒーローの雑魚要員として吸収合併もされかねない。
少なくとも『インクレディブル・ハルク』と『アイアンマン』は、その方向性を視野に入れて、もうすでに動き出している。
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インクレディブル・ハルク
監督:ルイ・レテリエ
出演:エドワード・ノートン、リヴ・タイラー、ティム・ロス、
ウィリアム・ハート、ティム・ブレイク・ネルソン、タイ・バーレル
(2008年/アメリカ)ソニーピクチャーズ エンタテインメント
8月1日より全国ロードショー
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