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2008/07/23

『きみの友だち』

思春期の心の彷徨をいつも繊細なタッチで紡いでくれる重松文学。

彼の奏でる物語に深く共感し、生きる勇気をもらった読者は数知れない。そんな重松が「自分の子どものために書いた」と語る名作「きみの友だち」が、とびきりの優しさに包まれた映画として生まれ変わった。

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小さい頃からいつもふたりきりだった少女たち。

ひとりは事故で足に障害を持ち、ひとりは「長くは生きられないかもしれない」病を抱えている。彼女たちの友情は小さい頃から時限爆弾つきだった。いつ世界の終わりが訪れるかも分からない。神様は時に容赦なく残酷だ。でもそうした関係は彼女たちの中で当たり前になっている。互いに相手のそのままを受け入れ、彼女たちはいつも穏やかに笑っている。

そうしたふたりの親友の出逢いから別れまでをメインに、そこに副次的なエピソードとしていくつもの「友だちのカタチ」が描かれる。

人気者の親友を持ってしまった同級生の誇りと孤独。後輩の人気に嫉妬する“面倒くさい”先輩。親友に彼氏が出来ていつの間にかひとりぼっちになってしまった女子学生・・・。

見てる側から「中学生も大変だなあ」なんて呟いてしまいそうだが、でもこれって、僕らの中学生の頃とあんまり違わない。僕らも例外にもれず、かつて中学生だったのであり、同じ空の下で、同じ青春の門をくぐって生きてきた。そのリアリティが妙に胸を刺す。

そして重松文学の大きな魅力は、そこに決して安易な悪意、挫折、絶望、皮肉を描かないことにある。友だちをめぐる各エピソードには必ずホッとできる着地点があり、読者(観客)は次から次に現れる魅力的なキャラクターたちに愛情を持ってぶつかっていくことができる。

その結果、僕らは登場人物の中に思わぬ“自分のかたち”さえも発見し、思わず苦笑したり、ますます愛着を感じたりもしてしまうだろう。

独断と偏見で付け加えると、僕がとくに魅了されたのがヨッシーという青年だった。一見、なんのとりえもなさそうな彼が、親友の陥ったピンチを思わぬ具合に救うことになる。その方法が泣けてくるほど味わい深い。こんなにも小さなエピソードに、作者の溢れんばかりの愛情を感じグッと引き込まれてしまう。きっと将来、ヨッシーのような人間が世界を平和に変える。そんな確信にも近い想いが込み上げるほど、この映画のディテールにはたくさんの愛が詰まっている。

また、廣木監督の写し撮る構図が素晴らしいのだ。

物語の背後にはいつも真っ青な空にふんわりとした雲。背後にその風景を持ってくると、カメラは思いっきり引かねばならないし、登場人物の姿も小さくなる。広いスクリーンの上で、ふたりの親友がくっついて歩く様子がとても小さく写っている。そこではふたりの住む世界と外側の世界とが自ずと対比されるが、その内圧と外圧は決して衝突しない。驚くほどの均衡が成り立っている。つまりこのスクリーンだけでいうと、彼女たちの友情が周りのすべての世界を支えていて、逆もまた然りなのだ。なんという表現力。心底すごいと思った。

結果的に、青少年の陰湿な友人関係や、よくある難病モノを思い描いていた僕は、大きく意表を突かれるかたちとなった。映画『きみの友だち』は決して新たな価値観を押し付けるのではなく、観客の心から自ずと大切な想いを引き出し、自分がたったひとりで生きている孤独な存在ではないことをやわらかく肯定してくれる。

この世界を生きていく背中をそっと押してくれる感覚、うん、これはやはり、重松文学の読後感と寸分も変わりないものだった。

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きみの友だち
監督:廣木隆一
出演:石橋安奈、北浦愛、吉高由里子、福士誠治、
森田直幸、柄本時生、柄本明、田口トモロヲ、宮崎美子
(2008年/日本)
7月26日より、新宿武蔵野館、渋谷シネ・アミューズほか全国ロードショー
グランパーク東宝8にて山梨先行ロードショー中

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