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2008/08/21

The Savages

日本でのDVDリリースを受けて加筆修正しました。

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ずっとバラバラだったサヴェージ家の再会。
そのはじまりは、一本の電話だった。

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フィリップ・シーモア・ホフマン、ローラ・リニーという、どちらも一筋縄ではいかない同世代の名優が共演し、批評家から絶賛されたヒューマンドラマ『マイ・ライフ、マイ・ファミリー』(原題 “The Savages”)。日本未公開だからといって見逃すのはあまりに勿体無い作品である。

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離れて暮らす老いた父、レニー・サヴェージが深刻なアルツハイマーに陥っているとの連絡が、その子どもたちジョンとウェンディの元に飛び込んでくる。親子の間にはもう何十年も交流がなかった。もちろんそれには理由がある。幼い頃、父は家庭内で暴力を振るった。あの頃の記憶は、いまでも二人の心に影を落としている。

父はその後、新たな女性と一緒に暮らしていた。ただでさえ気性の激しいレニー・サヴェージは、アルツハイマーの進行でますます手におえなくなった。そして老齢の連れ合いが死去すると、最終的な保護責任はジョンとウェンディのもとへ委ねられたのだった。

かくしてさまざまな思惑を抱えたサヴェージ家の面々の、
ちょっぴりおかしくて奇妙な介護生活が、幕を開けるのだが・・・。

この映画の見どころは、なんと言ってもジョンとウェンディという“途方にくれる”兄妹だ。ふたりとも中年真っさかり。ジョンは大学で戯曲について教鞭を取っていて。ウェンディは劇作家をこころざしながら臨時雇いのオフィス・ワーカーとして働いている。二人とも恋人はいても結婚に踏み切ることはない。表には出さないが、幼い頃に受けた心の傷が無意識レベルでどっかに引っかかっているのかもしれない。

いまやアメリカのインディペンデント映画界を支える立場となったフィリップ・シーモア・ホフマンとローラ・リニーは、突如舞いこんだこの“再会”に悩み、心に抱えていた根本的な問題と向かい合っていく人間を哀愁たっぷりに体現する。時おり病的なまでに勝気な態度をとるウェンディと、時おり内気な側面も覗かせるジョン。父レニーの咆哮が響きわたる一方、思いのほか穏やかな邂逅の時間が流れていく。忘れかけていたあの頃の記憶。決して悪いことばかりじゃなかった。あの頃の父と同じかそれ以上の年齢になった彼らの胸にはどんな想いが去来するのか。

ひとつ注目したいのは本作の根底に流れる“戯曲”というテーマだ。奇しくも兄妹どちらもがそれぞれ戯曲に真向かう人生を歩んできたのは何故か。ある種の人々は自らの体験をフィクションのなかへと反映させる。そうすることによって彼らは戯曲によってトラウマを葬りさる儀式を続けてきたのかもしれない。

そう考えると、終わり近くにウェンディが口にする"That's it ?"というセリフには、胸を掴まれる。おそらく彼女が取り組み続けてきた戯曲の世界に比べ、実際の人生はあまりにあっけなく幕を閉じてしまうものだったのだ。それに完全に不意を突かれてしまった様子が印象深く刻まれている。

そして面白いことに、ベッドに横たわっても相変わらず無軌道な父には、かつての暴力的な“父”の姿と、聞き分けの悪い“子供”の姿が同居している。ジョンとウェンディについても同じことだ。介護する側の彼らはレニーの子供でありながら、かつ世話する側(親)の立場でもある。この「子であり、親である」という“両義性”によって、かつての悪夢は少しずつ少しずつ昇華されていく。ひとつ間違えば深刻な映画に陥ったかもしれないデリケートな本作を極めて透明感あふれる作品に仕上げられたのは、ひとえに女性監督タマラ・ジェンキンスの成せる業といっていい。

『マイ・ライフ、マイ・ファミリー』“The Savages”はストレートな介護ドラマではない。むしろ介護というどこか“タイムマシン的”なシチュエーションが、数十年に及ぶ時間の隔たりをじっくりと溶解させていくヒューマン・ドラマである。

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