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2008/09/02

『ゴーン・ベイビー・ゴーン』

デニス・レヘイン(「ミスティック・リバー」)による探偵小説「愛しき者はすべて去り行く」の映画版『ゴーン・ベイビー・ゴーン』は、ベン・アフレックが脚本・監督という裏方に徹することで思わぬフィルムメーカーぶりを発揮した作品だ。全米公開時には「都市の暗部に鋭く切り込んだ現代ノワール」としてアカデミー賞に絡むほどの高い評価を得た。

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だが日本での知名度は今のところゼロに近い。それも当然といえば当然か。『ゴーン・ベイビー・ゴーン』の日本公開は見送られ、DVDリリースを迎えるのだから。

冒頭、ボストンにあるドーチェスターの町並みが映し出される。

決して裕福とは言えない人々の暮らし。ケイシー・アフレックによるモノローグが、幼い子供たちにとってあまりに過酷なこの街の環境を哀しみ深く伝える。

やがてカメラはテレビ局の中継車で溢れかえった一区画に接近していく。ここで何か事件が起きたようだ。ひとりの女性が「娘を返して!」と訴え、その周囲にたくさんのカメラが群がっている。どうやら幼い4歳の娘がベッドの上から忽然と姿を消したらしい。事件の経緯をボストン中が、いや今やアメリカ中が見守る中、解決に繋がる糸口はいっこうに掴めず、事件は3日目の朝を迎えようとしていた。

私立探偵のパトリック(ケイシー・アフレック)とパートナーのアンジェラ(ミシェル・モナハン)は、ふたりともこの街で生まれ、育ってきた。八方塞がりとなった捜査本部はこの街の暗部を知り尽くした彼らと連携しながら事態を前へ進めていく。

モーガン・フリーマン扮する警部は言う。「発生当日に解決できない誘拐事件は人質が生還する可能性が10パーセントにまで落ち込む・・・」

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パトリック&アンジェラは残された10パーセントに賭けるべく、警察が踏み込めない危険な領域へと潜入していく。二転三転とする供述、裏切り、ドラッグ、闇社会。果たして少女はどこへ消えてしまったのか。いまはっきり言えるのは、ひとつだけ。この事件にハッピーエンドは有り得ないということだ。気が滅入るような現実の果てに、彼らが辿り着く思いがけない真相とは・・・?

ベン・アフレックの弟、ケイシーといえば、これまでマット・デイモンやベンの影に隠れることが多かった。彼の本領発揮は『ジェシー・ジェイムスの暗殺』の頃からだろう。まさに主役のブラッド・ピットを食うほどの妙演ぶりで、冒頭に彼がひとこと台詞を発しただけで、その場の雰囲気は別次元へと昇華され、どこかイノセントな存在感がそのまま映画の基調トーンにも成り得ていくという不思議な映画体験を味わせてくれた。

今回の場合、兄が弟に主演の場を与えてくれた言うべきか、それとも兄の監督デビューを弟が救ってやったと言うべきか。まあ、少なくともベン・アフレックは弟の才能を見逃さなかった。互いの良さも悪さも知り抜いた彼らのコラボレーションは、「探偵パトリック・ケンジー」というキャラクターをこれまで見慣れた探偵像とはちょっと違うものへと仕立て上げる。一見、裏社会を飄々と生き抜いてきたように見えるが、実は心のどこかに底知れぬ哀しみを背負っているようにも思えるパトリック。ケイシーの身体から滲み出るタフさと透明感がこの表情と巧みに合致し、それらは孤独なオーラとなって絶望の淵にある物語を照らし続ける。

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ちなみにベン・アフレックは最初、自らが出演することも視野に入れていたそうだ。仮にベンがパトリックを演じていたとしても、ケイシーほどの微妙なニュアンスを演じ分けることはできなかっただろう。かねてより共に仕事をしてきた監督たちの現場で「彼らの仕事ぶりをよく見て学んできた」と語るベン。今回、監督・脚本にのみ徹した彼の潔い決断は、結果的に大きな収穫をもたらすこととなった。

また、どれだけストーリーが暗闇に蝕まれようとも、ベン・アフレックの切り取るボストンの町並みにはいつもどこかに光が刺し込んでいる。彼は生まれ育ったこの街を、まるで自身がもうひとりの探偵にでもなったかのような洞察力で鋭く切り取り、同時に遙か上空から神の視点で慈しみ、あらゆる哀しみと苦しみをすべて冷静に抱きしめようとしている。また光と思われていたものが実は途方もない混沌でさえある可能性を、この街の隅々まで知り尽くした彼は決して否定しない。

そしてケイシーやモナハンをはじめ、モーガン・フリーマン、エド・ハリス、エイミー・ライアン(本作でアカデミー助演女優賞にノミネートされた)といった役者陣に対して臆すること采配をふるったベン。この人の繊細な感性、物事をシンプルにシンプルに伝えていこうとする意識に感銘を受けた(後半、ちょっとだけ混迷するが)。

『ゴーン・ベイビー・ゴーン』は劇場公開しなかったことが悔やまれる良作であり、ベン&ケイシー・アフレック兄弟の今後を占う上でも欠かせない作品だ。

え?ベン・アフレックなんて、とっくに終わった人だと思ってた?

そんな彼でもカムバックしてくるところがハリウッドの面白さだ。映画人としてのベンの活躍は、むしろこれからなのかもしれない(多少の期待を込めて)。

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ゴーン・ベイビー・ゴーン
監督:ベン・アフレック
出演:ケイシー・アフレック、ミシェル・モナハン、エイミー・ライアン、
エド・ハリス、モーガン・フリーマン
(2007年/アメリカ)

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