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2008/09/05

『ダイアリー・オブ・ザ・デッド』

28歳で『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』を撮り、38歳で『ゾンビ(ドーン・オブ・ザ・デッド)』を撮り、そして68歳となったいま『ダイアリー・オブ・ザ・デッド』を撮ったロメロ。

ゾンビ物でありながら、ダイアリーですよ。
ブリジット・ジョーンズかよ(笑)!

もちろん今回もゾンビは大量に出てくるが、前作『ランド・オブ・ザ・デッド』のような一連のゾンビVS人間のシリーズ物というわけではない。

むしろロメロの特有の時代批評性をかなり前面に押し出してきたような、ゾンビ映画としてはかなり閑話休題的な恰好で、僕の中ではこれを「エッセイ風ゾンビ映画」と呼んでしまいたい気持ちもある。

「youtube時代における人間の行動力学」

こんなメディア論の講義にも成り得そうなテーマを、ロメロはあっさりと、自身が数十年にわたって真向かい続けてきた「ゾンビ状況」によって提出する。

それも相変わらずのグロテスクさと、とびきりのシニカルさを用いて。

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ストーリーは山の中で幕を開ける。
ホラー映画の撮影中に「ゾンビ大量発生」の臨時ニュースに触れ、
孤立無援の状態に陥ってしまった映画学科の学生たち&飲んだくれの担当教授。

帰るべき街はすでにゾンビによって陥落し、その被害が世界中に拡大していく中、「監督」の学生は取り憑かれたようにカメラを回し続け、すべてを記録したいのだと主張する。

はじめは素の状態でカメラを向けられることにいらだつ学生たち。彼らは銃を持ち、弓を持ち、カメラを持ち、生き残る道を求めて進んでいく。担当教授は「ベトナムの頃を思い出すよ」となぜか生き生きとしている。

人間とゾンビの境界なんて曖昧なものだ。人殺しとゾンビ殺しの違いだって誰にも判断のつきようがない。そしてプロの映像と自分たちの映像だって同じこと。生き抜きたければ何が正しいのかではなく、自分こそが正しいのだと信じるしか術はない。そうしているうちにも次々と新たなゾンビが襲いかかってくる。いつしか彼らの中で「撃つ」と「撮る」はshootとして同じ意味に成り果てていく。

そしてすでにテレビ局のネットワークが崩壊した今、頼れるものはyoutube的な映像アップロード・サイトのみ。世界中の個人が発信者となり、一秒間ごとに真偽の不明確なおびただしい映像がアップされていく。世界中から恐怖の叫びが、自我の崩壊が聞こえてくる。

こうやって「絶望」に取り残されてもなお「繋がっている」というカオスが醸成される中、学生たちは「自分たちが真実を記録するんだ」とばかりに、虚栄と使命感のせめぎ合いから改めて撮ることの意義、そして狂気を実践的に掴み取っていく・・・

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昨今、『ブレアウィッチ・プロジェクト』再び、と言うべきか、『クローバーフィールド』『REC』、それにデパルマの新作『リダクタッド』のように“ビデオカメラ”をテーマに据えた作品が数多く作られている。これは文学に寄り添ってフィクションを語るのでなく、映画は「状況」こそを作り出すものだ、という志向性から生まれてきたものであることは想像に難くない。

ロメロの場合はもっと狡猾だ。これらの「状況」を模索しながら、そこに効果音もつけるし、場を盛り上げる音楽だって忘れない。ハンディカムではないので、激しく手ブレ酔いすることもない(根本的なところで観客に対して優しいのだ)。そして何しろ、この目の前に広がったゾンビ状況を、局地的ではなくネットワークによって繋がることによって全体的に捉え、そのまま「人類の物語」へ仕立ててしまっている。

「映像という名のリアル」とはよく言われる言葉だが、そもそも全ての映画作品にとってカメラの存在とはいったい何なのか、という根本的な命題がある。それはいったい誰の視点なのか?たとえばモノローグの話者とカメラの視点が噛み合わないといった映画ならではの矛盾をどう説明するのか?

POV(Point Of View)映画はそこらへんのジレンマを分かりやすく解決してくれる。断崖絶壁の主観的な限界状況を見せ付けるかのようでいて、実はとても親切かつ客観的な構造を内している。

その土壌に40年にわたるロメロのゾンビ研究が投下されたわけだ。襲い来るゾンビを目の当たりにしながらも、カメラの前にカメラがあるという現場の二重構造を考えると思わず笑ってしまう。まるでカメラが併せ持った「マイナス」を2つ掛け合わせることによって、思わぬ「プラス(=リアル)」が生まれてしまうことを最初から計算し尽くしていたかのよう。そのリアリティの強度を確かめるべく、時にとてつもなくベタなことまであえてやってのけるところこそ、巨匠ロメロの心臓の太さなのだろう。

『ダイアリー・オブ・ザ・デッド』は、巨匠の手によって産み落とされた、世界でもっとも冷静なゾンビ映画と言えるのかもしれない。なにしろ、ほかでもない「ダイアリー」なのだから。

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ダイアリー・オブ・ザ・デッド
監督:ジョージ・A・ロメロ
出演:ミシェル・モーガン、ジョシュ・クローズ、ショーン・ロバーツ、
エイミー・ロランド、ジョー・デニコル、スコット・ウェントワース
(2007年/アメリカ)プレシディオ

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