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2008/10/04

魅惑のCF

■僕が子どもの頃、故郷の行きつけの映画館では上映の前にいつもローカルなCF(コマーシャル・フィルム)が流れていた。それはインド人が3人並んで「オマチシテマース!」と誘うインド料理店のものであったり、なぜか水着姿の女性が猛烈に浜辺をダッシュするだけという自動車学校のCFさえあった■田舎者の僕は、細胞レベルで、それがてっきり全国的なスタンダードと思いこんでいたらしい。だから東京の劇場で初めて映画に触れたときのショックは大きかった。だってあのインド人に会えないのだ。その居心地の悪さときたら、僕をどうにも落ち着かない気分にさせた。あのとき観たのは、たしか『クリムゾン・タイド』だったっけ■いまやシネコンと言う名の統一規格が全国にあふれ、儀式性のあるそれらの前戯もみるみる姿を消している■映画館にはそれにまつわる鮮烈な記憶がつきもの。アニメのキャラクターが注意事項を述べるような前戯に、今の子どもたちは鮮烈な儀式性を感じ得るかどうか。■4、5年前、帰郷した際、懐かしの映画館にたまらず足を踏み入れたことがある■僕は緊張しながら再会の瞬間を待った■音は飛び、色はかすれ、フィルムにはミミズのようなノイズがあふれていたが、あの3人のインド人は変わらず、そこにいた■あれから僕はいろんな人に出逢い、生き方や考え方、住む環境もずいぶんと変わったが、この場所で変わらず「オマチシテマース」と笑顔を浮かべる彼らを見て、自分もあの頃とまったく変わっていなかったことに気づいた。いつまでも劇場の座席でドキドキしながら座ってるガキなんだな、と■いま、あの料理店を訪れても、インド人が本当に待っていてくれるかなんて分からない。とっくに祖国に帰ったかもしれないし、亡くなっているかもしれない。あるいは撮影用の役者さんだった可能性も否めない■でも僕にとって、あれこそが最高のリアル。『僕らのミライへ逆回転』でジャック・ブラックが経験するのも、きっと同じ思いだったはずだ■そんなかけがえのない永遠の記憶をくれた故郷の劇場が、8月31日をもって閉館した■報に触れて初めて知ったが、開館したのは、僕が生まれた年だったそうだ。

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