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2008/10/03

活字の記憶

■活字が苦手だ。幼い頃、親から本を買ってもらっても嬉々としているのはカバーをめくる瞬間だけ。あとは5行も続かぬうちに気がそぞろとなり、黙って文字を追うのが困難になってしまう■今でもその体質は変わらない。なので活字に触れるときはいつも尻のあたりをグッと緊張させたり、周囲に誰もいないときは小学生のように音読したりして茶を濁している■ハリウッドにも似た症状の人が大勢いると聞く。トム・クルーズの失読症は有名だし、オーランド・ブルーム、キーラ・ナイトレイも同症を公表済み。そして皆が揃って言う。「私は芸術に助けられた」■そんな活字の宝庫たる図書館に立ち寄ってみる。カウンターでは小学生の男子が大声で「ハリー・ポッターと死の秘宝」を予約していた。気になって検索機で同作の貸し出し状況を調べてみると、飛び出したのは「予約90件」の文字。驚異的なのは90人目に並んでまで読みたいとするその男子の根性だ。まともに待っていては彼はあっという間に変声期を迎え、やがて中学生になってしまうだろう。これでは「予約」とは名ばかりの、一種のタイムカプセルに等しい■用事が済んだので身支度を始めていると、今度は女子の声で「どうしたら図書館で働けますか?」との質問が聞こえてきた。就職希望の小学生らしい。「司書にもいろいろあってねぇ。私自身の経験ならお話できるんだけど」と心優しい司書さん。すると女子は答えた。「それでだいじょうぶです」■環境問題を先取りしすぎて笑われた災害映画『デイ・アフター・トモロー』では図書館が思わぬ避難場所と化す。暖を取るための燃料として、どんな本を、どんな順番で犠牲にしていくか。活字好きの人にとっては身を切るような、しかしなかなかスリリングなシミュレーションだろう■ゴダールの『アワー・ミュージック』では、サラエヴォに住む女子学生が兵士に撃たれて死ぬ。時限爆弾かと思われた大きなバッグの中には、その実、たくさんの本が詰まっていた■真実なのか虚構なのか分からない。しかしこの逸話に妙なリアリティを感じてしまうのは、僕が根っからの活字嫌いゆえ、逆に本の魔力を最大限に信じているからなのだろうか。

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