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2008/10/26

映画祭雑記

■昨日までは映画祭一色だったはずの六本木ヒルズが、一夜明け土曜日になるとハロウィン色に変わっていた。どこからともなく『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』のテーマ曲が流れ、仮装した係員が、親子連れが、次々とアリーナへ集結してくる。トイレに入ると、そこでは男性数人がメイクに没頭し、ときどきマントを翻しては「フハハハ」と笑いながら「これでいいかな?」「もうちょっと理不尽な感じで」と最終チェックに余念がない。マントの下はまだトランクス。僕が「あ、ちょっと手を洗わせてくださーい」と分け入ると、「ごめいわくおかけしてます!」と彼らは丁重に頭を下げた。モンスター数人を従えた妖怪マスターか、俺は■映画祭事務局の方も言う「みんな渋谷に行っちゃいました」。昨日までは野戦病院のようだった事務局内部も今日は落ち着きを取り戻していた■午後から渋谷へ乗り込む。シアターコクーンでの上映は全席完売。オーチャードホールで行われる『男はつらいよ』と、余力次第で『デルス・ウザーラ』を観ることに。舞台挨拶で山田洋次監督がこう語った■「この寅さんシリーズが始まったのは、今からちょうど40年前。その頃の日本は高度成長期で、みんな働いてお金を稼ぐことに一生懸命になっていた。そんな時期にどういうわけか、この何の役にも立たない、遊んでばかりいる男が大人気を博したわけです。僕には当時の日本人が心のどこかで『このままじゃいけない』と思っていたのではなかろうか、と考えるわけです。そして40年経って、昨今のニュースを見ておりますと、いよいよそのつけが回ってきたような気がせずにはいられません」■さすが巨匠だ。この場所で、この映画を、このキャラクターを、見事に位置づけた■さらに拍手喝采だったのは『デルス・ウザーラ』上映後の野上照代さんのかくしゃくとした存在感だった。「黒澤組の生き残りです」と言って登場した彼女の、とりわけ次の言葉に会場が湧いた■「たぶん、映画祭のテーマがエコってことでこの映画が呼ばれたんでしょうけど、でもはっきり言って、黒澤さん、これ(『デルス・ウザーラ』のセット)ぜんぶ作っちゃってますからね。ぜんぶ人工!」■皮肉なことに、映画祭期間中、世界の関心はエコから経済問題へどんどん移行していった。しかし移りゆくものがあれば、そこに留まり続けるものもある。渥美清も黒澤明も亡きこの世の中で、人々が抱える諸問題を越えて、映画にまつわる精霊は、確かに、そこかしこに存在する。それこそハロウィンの「トリック・オア・トリート」ではなく、世界共通の映画言語で、いまだに語りかけてくるのだ。

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