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2008/10/22

映画祭雑記

■午前10時半を回った頃、六本木ヒルズの長いエスカレーターを上がると、いつものように映画祭ボランティアの方々の元気な声が響いてくる。だが今日は少し様子が違った。あのでかいクモのモニュメントの下で、ひとり背の高い外国人が黙々とリーフレットを配布していたのだ。僕はそれをサッと受け取る。英会話学校の宣伝ではなかった。映画の宣伝だった。過ぎ去っていく僕の後ろ姿めがけて"This is my movie.It starts 13:50. "と声を投げかけてくれた彼。その温かみのある声につられて僕は思わず振り返って「サンキュー」と手を振った■今回の映画祭でコンペ部門に出品されている『プラネット・カルロス』。監督を務めたアンドレアス・カネンギーサーは、そんな律儀な人だった。僕はその律儀さにすっかり魅了され、その日の午後のマスコミ試写を全部キャンセルして、13:50からの彼の作品に臨むことにした■ドイツ出身の彼は公務員としてゴミ収集などの仕事に従事し、その後、紆余曲折を経て映画への想いが捨てられず、学校に入り直したという。その経歴からしてますます律儀だ■彼の映画作りもその律儀さが投影されている。ドイツを離れて1年間滞在したニカラグアで、彼は貧しいながらも逞しく生きる少年を被写体にほろ苦い人間ドラマを撮り上げた。才能はあってもそれがなかなか実を結ばない少年の話だ。間違っても「傑作!」とまではいかないが、それでも、この86分の上映時間を僕は愛おしく思ったし、彼が今朝ああしてクモの下に佇んでいなかったら、僕は生涯ニカラグアのことなど気にもとめずに生きていったかもしれない■上映後は、観客の質問にいちいち「ご質問、ありがとう」「ご指摘ありがとう」と感謝の言葉を欠かさない。ただただ律儀だ。かと思えば、彼は"poetry"を"poverty"と聞き間違え、真剣に貧困についての話を語っていた。司会者に「poetryですよ」と指摘されたときのあの「やっちゃった!」的な表情を僕は忘れない。とにかくカネンギーザーはとても律儀な男だった。これが律儀さを競うイベントなら、間違いなく彼がグランプリだ。

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