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2008/10/30

『ブーリン家の姉妹』

ナタリー・ポートマンとスカーレット・ヨハンソンが姉妹役で共演する英国歴史劇『ブーリン家の姉妹』。

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脚本を手がけたのが『クィーン』『フロスト×ニクソン』などで名を馳せる俊英ピーター・モーガンというだけあり、よく知られた歴史の表舞台とその裏側のフィクショナルな部分がよく練り込まれ、つまりはこのふたつの要素の掛け合いこそが「歴史劇が現代に蘇る」という正当性を持つのだとあらためて思い知らされる。

 日本人には「ブーリン家」と突きつけられても「?」という感じだが、「アン・ブーリン」という名前を聞けば多少の歴史好きならば「ああ!あの人!」と快い反応を示してくれるのではないだろうか。彼女は当時のイングランド王ヘンリー8世の愛人であることに飽きたらず、夫婦の離婚を禁じていたカトリック教会への帰依を国王に放棄させ、自分を強引にも正室として認めさせた女性である。この大騒動によって英国の運命は大きく変わった。国民はこれらの情事に右往左往させられてしまったことになる。

 ややもするとこの一連の響きから日本では「悪女」とも受け取られてしまいそうだが(僕自身、高校生のときには「なんて昼メロみたいなヤツなんだ」とあきれかえっていたものだが)、英国で人々に彼女の印象を聞いてみると思いの外非常に愛されていることに驚かされる。だがそれも当然。きっかけは強引だったにしても、この一件があったからこそ、英国はカトリック教会の下僕となることなく国教会を築き上げ独立を保てたのだし、アン・ブーリンは結果的に、誰もが知る英国史上最強の女王の生母として、彼女の生まれ持った「強さ」の「エピソード1」を生き抜いたといっても過言ではないからだ。

 そもそもこの時代に善悪の線引きなどどこにあったというのか。『ブーリン家の姉妹』は、この頃の「家族」といったものが血を守るために、家名を上げるために、いかなる権謀術数に身をさらしていたかを伝えてくれる。自らよりも上位の家庭に娘を嫁がせ、あわよくば爵位をも得んとしてラブ・アタックの機会を真剣に論じあう父親や親類。娘たちもその期待に応えようと懸命になり、その中で多少の自我が生まれ、嫉妬や真の愛情が生まれ、出産の道具ではなく自分の人生を生き抜こうとする尊い意志が生まれてくる。

 歴史のフィルターを当てはめると、そこには「昼メロかよ!」というような悪態すらも当てつけられよう。だがそれを現代とおなじ尺度で普遍的に見つめると、アン・ブーリンの姿にあまりにも懸命に愛を求め続けた女性の姿が浮かび上がる。

 しかし理性的に振る舞っていたはずの彼女は、徐々に理性では突き崩せない運命へと突き当たり、英国王室という巨大迷路の中でがんじがらめになっていく。そしてこの家族さえも制御できない猛烈な生き様の向こうにいつしか斬首台の露となって消えゆく運命が待っていることを、彼女は知らない・・・。

 本作の原題は“The Other Boleyn Girl”という。

 妹はいつも姉の後ろ側に隠れ、「ブーリン家の“もうひとり”の娘」と呼ばれる。妹が先に嫁ぐことになると今度は姉が「“もうひとりの”娘」となる。

 ヘンリー王の寵愛を受けたアンとメアリーの両姉妹は、このように交互に歴史の表舞台に姿を現してきた。感情的になりやすい姉と温和な妹とで性格はまったく異なるように思われるが、ピーター・モーガンによる脚本は実はそれぞれが「姉妹」という「表裏一体」として存在していたことを巧みに描き込んでいる。

 このふたりが目撃する歴史のダイナミズム、そしてブーリン家が迎えるあまりに悲惨な運命、そして新たな時代、イングランド黄金期のはじまり・・・。

 『ブーリン家の姉妹』は、歴史の暗部にカメラが潜入したかのような、永遠のヒロインたちの心の流れをよどみなく活写した名作である。

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ブーリン家の姉妹
監督:ジャスティン・チャドウィック
出演:ナタリー・ポートマン、スカーレット・ヨハンソン、エリック・バナ、
デビッド・モリッシー、クリスティン・スコット・トーマス、ジム・スタージェス
(2008年/アメリカ=イギリス)ブロードメディア・スタジオ

●『フロスト×ニクソン』レビュー
●『ラストキング・オブ・スコットランド』レビュー
●『クィーン』レビュー

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