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2008/10/23

ホーム 我が家

東京国際映画祭のワールドシネマ部門に出品されているスイス映画『ホーム 我が家』。この和やかなタイトルに騙されてはいけない。ウルラス・メイヤーという71年生まれの女性監督が初めて挑んだ長編作のだが、これが凄い。何がって、発想が。そしてバイブレーションを細くも太くもずっと維持し続けてあらゆるシンプルなイベントへと接続させていく集中力が半端じゃない。

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登場人物はイザベル・ユペールとオリヴィエ・グルメ演じる両親と、娘2人に息子1人。家族は日夜とても楽しく生きていた。周囲に誰もいない土地に大きな家と広い庭。まるで俗世から隔絶された空間だ。家族でスポーツ、談笑、テレビ鑑賞、水遊び、食事。いつも笑いが絶えない。一瞬、険悪なムードが漂ってもとたんに「はっはっは!」と笑い飛ばす。彼らしか存在しない楽園に火種など生じるわけがない。

だがある日、幼い息子が「人影をみた」と口にすると家族の表情が変わる。彼らは運命の訪れを予感したのだ。翌日、どでかい清掃車両と宇宙人のような防護服を着た男たちがやってきて周到な準備を始める。一家の庭だと思われていただだっ広いスペースがコールタールで塗り固められていく。

そこは新しい高速道路の建設場所だったのだ。

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ラジオからニュースが流れる。「いま、記念すべき最初の車両が入っていきました!」。我が家はたちまち喧噪のど真ん中と化す。これまで平気で横断できた道路は、そこに川でもできたかのように今では遮断され、人の進入を頑なに拒む。凍り付く家族。楽園は汚され、家族はどんどん精神的ノイズにさらされていく。誰かが言う。「引っ越してしまえばいいのに」。誰かが応える

「だめよ。母さんはあそこじゃなきゃ、生きられない」

一家の神経症は加速していく。家族の意思疎通も困難となる。あんなに楽しかったのに。あんなに幸福だったのに。はたして彼らは人生のインターチェンジで、どんな決断を下すのだろうか・・・。

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いらない贅肉をどんどんはぎ取り、極限までにシンプル化されたこの作風に驚かされる。一見あり得なさそうで、あり得る。そんな皮首一枚で繋がった現実とファンタジーの合間を揺れ動く設定が、まるで観客も家族の一員に編入されたかのように物理的、精神的な状況変化に侵されていく。もちろんこれらを人間と社会の関係性を比喩的に捉えたものとすることもできるだろう。それにしてもあまりに見事な状況設定だ。この素っ頓狂な視点に観客をいざなっていく手腕も卓越している。

そしてラストカット、はじめてカメラは家族を離脱し、高速道路を走り去っていく。息をのむほどの美しいシーンだ。希望がある。人間は自ら作り出した壁を破り、そしてまた新たな次元へと旅立っていく。彼らはさらなる楽園を求めるのか、それとも「この世に楽園などない」と悟るのか。

言えるのは、今が旅立ちの季節だということだけだ。

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監督:ウルスラ・メイヤー
出演:イザベル・ユペール、オリヴィエ・グルメ、アデライード・ルルー
(2008年/スイス)フランス語

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