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2008/10/26

『トルパン』インタビュー全文

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第21回東京国際映画祭において、東京サクラグランプリと最優秀監督賞のダブル受賞を果たしたカザフスタン映画『トルパン』。

その監督を務めたセルゲイ・ドヴォルツェヴォイさん、主演のアスハット・クチンチレコフさん、女優のサマル・エスリャーモヴァさんへの単独インタビューを、ここではあえて編集なしで全文掲載します。『トルパン』という映画と同じく、端からは無駄と受け取られそうな他愛もないやりとりの中にこそ、彼らのリアルな表情が見えてくるような気がするからです。

(ショート・バージョンはこちら

それでは始めましょう。

少しでも多くの方が『トルパン』にご興味を持っていたければと願ってます。

************

---このような機会を設けていただき、ありがとうございます。のっけからこう言うのもなんですが・・・実はロシア語の通訳さんがおられず、英語の通訳さんの到着も遅れているみたいで・・・少しの間、僕のつたない英語でご勘弁ください。

【セルゲイ・ドヴォルツェヴォイ(以下セルゲイ/監督)】

心配しないでください。アスハットとサマルには私がロシア語に通訳して伝えます。

---『トルパン』、最高でした。この映画祭で最も心を鷲づかみにされた映画です。ライクじゃなくて、ラブです。

【サマル・エスリャーモヴァ(以下:サマル/女優)】

さ・・・さんきゅーべりーまっち・・・

(↑英語で語りかけてくれる)

【アスハット・クチンチレコフ(以下:アスハット/男優)】

サンキュー!

(↑ずっとニコニコと笑いかけてくれる)

---初めに簡単な確認をさせてください。実はエンドクレジットのスペシャル・サンクスの欄に『少年、機関車に乗る』や『ルナ・パパ』で有名なタジキスタンの監督「バフティヤル・フドイナザーロフ」の名を見つけたんですが、彼はこの映画に関わっていたのですか?

【セルゲイ/監督】

彼は私の友人です。映画について電話で相談に乗ってくれたりアドバイスをくれたり、そういう仲です。この映画にプロフェッショナルに関わったわけではありません。あくまで協力者として名前を載せました。

---なるほど、そうだったんですね。あ、通訳さんがいらっしゃいました。

【通訳さん】

遅れてすみません!よろしくお願いします!

---こちらこそ助かります!よろしくお願いします。これで小難しい質問ができます。それでは本編について話を伺っていきたいと思います。監督はこれまで『パラダイス』『ハイウェイ』などのドキュメンタリーを手がけてきましたが、今回フィクションを描きたいという情熱はどこから沸き上がってきたんでしょう?

【セルゲイ/監督】

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どこか軍隊長を思わせる凄みとオーラを放っています

私の国はいま、モラル的にドキュメンタリーを撮ることが難しい現状にあるので、そちらの方はちょっと中断して、前々から温めていたアイディアがあったので、これを機会にフィクションへ切り替えてみようかなと思いました。今後ドキュメンタリーに戻るか戻らないかは分かりませんが、完全にやめたというわけではありません。

---『トルパン』のテーマがこれまでのドキュメンタリーと共通していたのは必然だったのでしょうか?

【セルゲイ/監督】

私はあまりスタイルとかに固執したくないんです。むしろ私の体内から沸き上がってくるものに身を任せたという感じでしょうか。キャラクターやストーリーやその土地への愛といったものを自分なりの解釈で展開していくというのが私の映画作りのあり方です。

■究極のリアリズムからフィクションが立ち上がる

---映画の世界では「どんな名優も、子役と動物には敵わない」と言われますが、『トルパン』では大人も子どもも羊もラクダも馬もタコもタツノオトシゴも、同じステップの大自然の中でみんな平等に描かれています。これはスタッフ&キャスト含めて行われた現地での共同生活の賜物なんでしょうか?

【セルゲイ/監督】

『トルパン』ではステップでの実生活に近い描写が続くので、子役や動物から大人に至るまで、できるだけそれぞれのリアルな個性や温かさを生かしたいと思いました。ボニー役の男性以外はみんな実名で登場しますし、サマルや少女が口にする歌もこの映画のために作ったものではなく、もともとこの土地でずっと歌い継がれてきたものです。

それから3人の子どもたちが出てきますが、彼らはみな同じ村の近場に住む親戚同士なんです。そこにアスハットやサマルや羊飼い役の俳優、彼の本職はオペラ歌手なんですが、彼らに一ヶ月くらい共同生活してもらって、入念な準備をお願いしました。その結果、撮影までには本当の家族のような関係ができあがっていました。映画では真実を引き出すことが大切なので、演技ではなく、心の内側から出てくる「真実」を見せたかった。『トルパン』はそうやって達成できた映画です。

---映画を観てると、バックで砂嵐や竜巻や稲光が映り込んでいて、とにかくどのシーンも壮絶な現場を想像させます。アスハットさんとサマルさんは演じていて監督のことが嫌いになったりしませんでした?

【セルゲイ/監督】

$(&’%$(&’%(ロシア語に通訳中)

【サマル/女優】

・・・いいえ。そんなことは少しも。

---あ、監督に通訳してもらってるから「嫌い」とは言えませんよね(笑)。

【セルゲイ/監督】

え?私が言わせてるって(笑)?

【サマル/女優】

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かわいらしさの中に女優としての芯を秘めた人です

(ここから英語で)本当に・・・興味深い体験をさせてもらったんです。不満はまったくありませんでした。強い風に吹かれて「おおー」って翻弄されて、大地から力強いエネルギーをたくさんもらいましたよ。

【セルゲイ/監督】

もちろん竜巻から稲光までぜんぶ本当に起こっているものです。CGや視覚効果はいっさいありません。

【サマル/女優】

(ここから再びロシア語で)監督がリアリティを、俳優の自然なリアクションを求めてくれたので、その点をすごく感謝しています。自然に助けられた面もありますし、本当の自然だからこそ辛い面もありましたね。

【セルゲイ/監督】

たとえば強い風の中で二人が話しているシーンがありますよね。あれは3週間も準備して撮りました。強風がいつ吹いてくれるか分からず、一ヶ月くらい待ち続けたこともあります。ひどく寒くて、厳しい突風に煽られる条件下だったからこそ、ああいう自然な演技が引き出せたんだと思います。機械で風を吹かせたり、気温を下げたりするのでは、あんなに真に迫った演技は出てこなかった。

---アスハットさんはいかがです?っていうか、あれ?映画の中ではあんなに耳がでかいのに、いまは普通ですよね?僕の気のせいでしょうか?

【アスハット/男優】

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この人、映画の主人公そのまんま!

あれは特殊メイクですよ。毎朝5時起きで加工してもらって、たいへんでした。

---そうだったのか、謎が解けました(笑)。それでは気を取り直して、アスハットさんは今回の撮影現場、いかがでした?

【アスハット/男優】

今回、すべてがはじめての体験でした。右も左も分からない映画撮影に参加してみて、その困難さを知りましたし、1秒1秒のカットを地道に重ねていくことの苦労も身を持って体感しましたね。監督の影響を受けて、僕も将来、このカザフスタンの大地で映画を手がけてみたいという夢を持つようになりました。

---わあ、その作品を持ってまたTIFFに戻ってきてくれることを楽しみにしています。約束ですよ。

【アスハット/男優】

ええ、がんばります(笑)!

■そこではマジックリアリズムが巻き起こっている

---『トルパン』では圧倒的な長回しが幾度も登場します。それらはまさに大地と演技が一体化したシーンの数々で、観客も圧倒されるあまり思わずスクリーンの存在を忘れてしまいます。演じているおふたりも撮影中にカメラの存在を忘れて演技に没頭するような瞬間ってありませんでした?

【サマル/女優】

私は普段、お芝居のお客さん相手に演技をしているのですが、今回は何よりも「自分が存在していること」だけが重視されていました。カメラを意識しなきゃとか、こういう風に演技しなきゃといった制約がなかったんです。そういった意味ではステージ上よりもリラックスできたかもしれません。

【アスハット/男優】

撮影中は完全に『トルパン』の世界に浸っていて、特別な雰囲気の中に包まれていました。おっしゃるとおりカメラが回っているのを忘れて、演技に没頭していることが多かったですね。

---『トルパン』はこんなにもリアリズムに徹して撮影が行われているわけですが、ラストにチューリップ(トルパン)の絵が登場することでマジックリアリズムとでも言うべき珠玉の一瞬に包まれます。このシーンに監督が込めた想いをお聞かせください。

【セルゲイ/監督】

まず、トルパンというのはチューリップという花の名前であり、同時に主人公が恋する少女の名前でもあります。この花は、簡単には叶わない夢、生きていくための目標となる存在を表しています。だから私はこの少女の姿を最後まで見せなかった。簡単には見せたくなかった。そうすることで夢を叶えるために力強く生きていこうとする圧倒的なエネルギーを観客の皆さんに感じてもらえると思ったんです。

---なるほど、この映画に触れた観客ならばきっと誰もが心の中にチューリップが芽吹くのを感じると思うんです。見えないけれど僕らは確かに言葉にできない何かを受け取っている。監督の巻き起こしたマジック・リアリズムはここに集約されると思うんです。

【セルゲイ/監督】

そう言ってもらえると嬉しいですね。時として映画は見えるモノよりも見えないモノの方が多くを伝えることがあります。なるべく意識して観客にゆだねることに徹したつもりです。そこから何かを感じ取っていただければと思います。

■外の世界への憧れ、そして、少女の歌

---この映画で男の子はラジオの海外ニュースを暗唱して何度も口にしたり、木の棒にまたがってパッカパッカと馬に乗る真似をして動き回ったり、何かと外の世界への憧れを全身で体現しようとします。それとは対照的に兵役を終えたばかりの主人公は「都会は嫌だ」と言う。彼らの違いはどこで生じるものなのでしょう?

【セルゲイ/監督】

これは大人になるにあたっての通過儀礼なのかもしれません。カザフでもどこの国でもそうだと思いますが、みんな都会へ行きたいと思うものです。都会に行けばよりよい生活が手に入れられると思いがちで、これはひとつの「夢」であり「幻想」ですよね。しかし人生とはその人がどこへ行こうがどこに住もうが、その人の人生であることには変わりがない。この映画のラスト、主人公は「ここで生きることが本当の人生で、本当の幸せなんだ」という答えに辿り着きます。『トルパン』はそういう精神的な成長の映画だと思います。

ラジオの男の子はまだそういうことに気づいていない段階で、頭の中に漠然とした憧れを描いているだけなんです。現実は現実。人生とは、明日の「老い」を見つめるよりも、いま自分がここにこうして生きている幸せを噛み締めることの方がよっぽど重要なのではないかと思っています。

---対する長女は、とにかく健気に歌い続けます。挙げ句の果てにはサマルさんも一緒になって大声で歌います。彼女たちにとって歌とはどういうものなのでしょう?

【セルゲイ/監督】

多くの映画監督が作品の大部分に効果音的なサウンドトラックを添えますが、私はそういうことを好みません。そもそも音楽と映像は似通った表現方法だと考えているので、それらを重ねる必要は全くないと思います。私が歌を使いたかった理由は、そこで実際に歌う者の強烈な個性や人生観を刻み込むことができるからです。

この映画でも歌によって家族の立ち位置が明らかになります。父親は「歌はやめろ」と言いますが、少女自身はずっと歌っていたい。そんな少女の置かれた境遇をここでは効果的に表しています。歌を入れることでそんな家族をめぐるドラマ的な側面を補強・強化することができました。単なる雰囲気づくりではないんです。

---なるほど、あらゆるシーンにおいて音楽は、登場人物が口ずさむか、あるいはラジオやカーステレオから流れてくるものでしたね。いまその全ての瞬間に強烈な個性が刻まれていたことが頭の中にフラッシュバックしてきました。

【セルゲイ/監督】

『トルパン』はご覧の通り女性があまり登場しない映画です。その中であの長女は唯一クローズアップされる女の子なんですが、彼女にまつわるストーリー、関係性、前向きに生きていこうとする力強さといったものがこの歌によって協調されるわけです。そう考えると、実は彼女もこの映画のメインキャラクターと言えるのかもしれません。それほどあの少女はすべての人間関係の要として機能し、その真っ直中で声を張り上げて歌い続ける。セリフがたくさんあるわけではないですが、彼女が存在してこそ、家族は繋がっていたと言えるのではないでしょうか。

---なるほど。あ、そろそろ制限時間のようで、あちらの女性が旗を上げました(嘘)。

【セルゲイ/監督】

おお・・

---僕がいつもインタビューのたびにお聞きしている質問があります。本当は3人にお聞きしたいのですが、時間がないので代表して監督にお聞きします。

【セルゲイ/監督】

分かりました。

---今の世の中、人に想いを伝えることがどんどん困難になっています。そんな中で監督ご自身は「映画の持つ可能性」についてどう考えていますか?

【セルゲイ/監督】

もしかすると世間知らずで子どもっぽい意見になってしまうかもしれませんが、許してください。これまで国内外で『トルパン』を観てくれた多くの方々が「自分の中の何かが変わった!」という感想を寄せてくれました。「映画を観た後にとてもいい気持ちになった」と。私があなたの質問に答える手がかりはこのあたりにあるような気がします。

---ええ、ええ。

【セルゲイ/監督】

私が伝えたいのは、つまりカザフスタンの人間も他の国の人たちと全く同じだということです。まったく違う風土で違う生活をしているかもしれないけれど、皆さんと同じ問題を抱えて、同じ幸せを求めて、同じ愛を求めて生きている。そのことを知っていただきたいのです。それに気づきさえすれば、あとは日本人であろうとアメリカ人であろうとロシア人であろうとカザフスタン人であろうと、同じ人間どうし。とても近い関係性を築いていけると思う。そこに大きな映画の可能性が見出せるのではないでしょうか。

---僕が『トルパン』で教えられたのはまさにその点でした。何人であろうと、同じ映画言語を通じて、僕らはこの家族の物語にすぐさま接続できる。それがこの映画の素晴らしさだと思います。

【セルゲイ/監督】
嬉しいコメントです。ありがとう。

---アスハットさんとサマルさんにもたくさんお話を伺いたかったですが、ロシア語の通訳さんの人手が足りず、申し訳ありませんでした。今日は興味深いお話をありがとうございました。それでは最後に3人そろって記念写真を一枚いただいてもいいでしょうか?

いきますよ?

いいですか?

スマイル!!

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