« 『ブロック・パーティー』 | トップページ | 映画祭、開幕 »

2008/10/17

『トルパン』

Tulpan_3   
10月18日から第21回東京国際映画祭が開幕する。試写できている作品はまだ数本だけだが、それにしても凄い作品に出逢ってしまった。かつて『少年、機関車に乗る』や『ルナ・パパ』などバフティヤル・フドイナザーロフ作品に魅了されたことがある人なら、まさに必見。コンペ部門に出品されるカザフスタン映画『トルパン』である。正式に言うと、ドイツ、スイス、カザフスタン、ロシア、ポーランドの合作映画だ。

*幸運にも監督&キャストにインタビューする機会に恵まれました。こちらに全文掲載してますので、ご興味おありの方はご覧ください。

冒頭のまだスクリーンに光が差し込まぬうちから、けたたましい音だけが聞こえる。何かが移動する音。動物の鳴き声。そしてようやくひとつのイメージが幕を開ける。そこにはステップ地帯にテント(ユルト)がひとつ。そのすぐそばを動物の群れが圧倒的な迫力で移動していく。そう、これはカザフスタンの大自然に生きる家族の物語。

厳しい自然の中で、水兵としての兵役を終えたばかりの若者がこの地で幸せな家庭を築くべく奔走する。理想こそひたすら高いが、現実は厳しいことばかり。行く当てもなく姉夫婦のテントに居候中で、羊飼いとしての腕も半人前。挙げ句の果てには本意気で臨んだプロポーズにも破れ、その理由も「耳がデカイから」ときたもんだ。

やさしくたくましい姉、無骨な義兄、かわいらしくて働き者の甥や姪たち、そして羊、犬、らくだ、タツノオトシゴ、タコ・・・。

この厳しい自然の中で命の大小など存在しない。すべては同じ条件下で誰もが精一杯に生きている。圧倒的な長回しが続くが、それは周到に用意された演劇性とは真逆の、大自然の驚異と動物たちの動きの不規則性ゆえ一回きりのドキュメンタリー映像を見ているかのようだ。スクリーンのどこにも虚構がない。ふと竜巻が大地を横切っていく。羊の移動でおびただしい砂埃が舞い上がる。ラジオからのニュースを一字一句暗記する少年。暇さえあれば歌を歌っている少女。群れを離れた馬が遠くでひっそり交尾を繰り広げると、幼子が衝動的にそれを追って「パッカパッカ」と駆け出そうとする(どんな名優でも動物と子役には敵わないというが、この幼子は格別だ。まるでバスター・キートンを見ているかのような動きで観客を魅了する)。

これといって強靱なストーリーがあるわけではないが、独特のユーモアが観客を惹きつけてやまない。何もないこの土地で、そこに暮らす人々の生活を見ているだけで心が洗われる。その意味では異文化コミュニケーションとして『トルパン』は国際映画祭作品にふさわしいステイタスを確立しているのだろう。だけど僕はこれを「カザフスタンだから」「大自然だから」とかいう理由で褒め称えるのではなく、まさにこの地で、他の何よりも増して強烈な映画言語が語られていたことこそを賞賛したい。住む環境は違えど、それらは僕らが瞬時にコネクトできるボーダーレスなものだ。

『トルパン』で描かれる広大な大自然の中で、僕らはなぜか極限の閉所感覚に襲われる。幾度となく外の世界への憧れが語られるたび、逆に郷土への愛が滲み出てくる。これは局地的な物語が同時に世界的(普遍的)な物語でもあるときに沸き上がってくる、ある種の映画監督の「念」のようなもの。これまでドキュメンタリー監督として歩んできたセルゲイ・ドヴォルツェヴォイ監督は、その意味で『トルパン』に強烈なアドヴァンテージを刻みつけている。

冒頭に「フドイナザーロフ作品を彷彿とさせる」ということを書いたが、エンドクレジットを見ていると「special thanks」の欄に彼の名前があったような気がした。名前の表記が不確かで未確認なのだが、もしも映画祭でご覧になる機会があった方は是非最後まで席を立たずに、ご確認いただきたい。

*ドヴォルツェヴォイ監督に直接確認してみたところ、僕の予感は当たっていたことが判明しました。フドイナザーロフはこの映画に直接関わることはなかったけれど、監督仲間としてときどき電話などでアドバイスをもらうことがあったそうです。

とにかく『トルパン』、必見です。

↓この記事が参考になったらクリックをお願いします。

------

TOP】【過去レビュー】【DIARY

|

« 『ブロック・パーティー』 | トップページ | 映画祭、開幕 »

【劇場未公開作】」カテゴリの記事

【家族でがんばる!】」カテゴリの記事

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/137483/42817491

この記事へのトラックバック一覧です: 『トルパン』:

« 『ブロック・パーティー』 | トップページ | 映画祭、開幕 »