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2008/10/04

『僕らのミライへ逆回転』

とにかく今度のミシェル・ゴンドリーは強大なポジティブ・パワーに満ちている。よく言えば繊細、悪く言えば内省的過ぎる心象風景を奇想天外なクラフト感覚に乗せて描いてきた彼が、『僕らのミライへ逆回転』では圧倒的な手応えでもって観客の心にグイグイ迫ってくる。これはほんの軽い気持ちで始まった悪ふざけが、いつしか街を飲み込むムーヴメントへと膨れあがっていく、ちょっと大袈裟に聞こえるかもしれないが、ずばり「映画の神話」とでも言うべき物語だ。

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街角にVHSしか品揃えのない寂れたレンタル屋が佇んでいる。店長(ダニー・グローバー)の言を借りれば「伝説的なジャズ・ピアニストの生家なんだぜ」。そんな歴史的建造物(本当か?)も今や都市計画によって取り壊しの運命を余儀なくされている。

とにもかくにも、そんなレンタル屋でアクシデントが発生。なんと店に入り浸るジェリー(ジャック・ブラック)が持ち込んだ電磁波のせいでレンタルビデオの映像がぜんぶ消えてしまったのだ!これじゃ廃業も免れない。崖っぷちの店員マイク(モス・デフ)はジェリーとともに、貸し出し希望のあった人気作を家庭用ビデオカメラでリメイクする大作戦に打って出るのだが…。

はたしてリスペクトか冒涜か、リメイクされる名作は『ゴースト・バスターズ』『ラッシュアワー2』『『ロボコップ』『ドライビング・ミス・デイジー』など数知れず。

このリメイク作のチープさがたまらない。学生映画でも実現可能な、段ボールと廃品とでこしらえた美術セットの山、山、山。しかしオリジナルとリメイクの間の圧倒的な格差は、凄まじいまでのイマジネーションで埋め尽くされている。

ミシェル・ゴンドリーは撮影にあたってキャスト陣にこう告げた。

「オリジナル作品を見直す必要はないよ」

この「オリジナルを知らない」、あるいは「うるおぼえ」という曖昧なスタンスが、登場人物の崖っぷち感をかえって巧く引き出すことになるのだ。

それは例えるなら伝言ゲームがその「冒頭」と「結末」とで破格のスケールへ変貌するのと同じ。ここでは奇跡的なまでの「ズレ」が、リメイク作を宝石級の輝きにまで高めているのだ。

しかし、この映画はここからが肝心。

嵐のようなドタバタが過ぎ去ると、いつしか彼らはリメイク作ではなく、自分たちにしか描けない唯一無二の物語を紡ぎ始める。彼らの生まれ育った街の物語を---

映画はたかが虚構かもしれない。されど、虚構はときに人間の記憶の中で巨大なリアルへと変貌する。『僕らのミライへ逆回転』が8割方の悪ふざけをひっさげながらも真摯に紡ぎゆくのは、「記憶の再現(リメイク)」であり、同時にそこから飛び出した「リアルの醸成」だ。

それらが途方もないうねりとなって、街中を温かいコミュニティ愛で包み込んでいく。そして気がつくと、ジェリー&マイクはその中心に立って、まさか自分たちが震源地だったとは気づきもせずに回りをキョロキョロと見回している。その姿にどうしようもなく胸が震えるのだ。

これはつまり、おなじミシェル・ゴンドリーが綴ったドキュメンタリー『ブロック・パーティー』のテーマををそのまま”映画”に置き換えたメタ・シネマ・フィクション。あるいはゴンドリー版の『ニュー・シネマ・パラダイス』といっても過言ではない。

どんなに複製技術が進化したって、僕らは決して創造力を忘れない。

それさえあれば、どんな時代だって、乗り越えられる。

*ちなみに原題の“BE KIND REWIND”は「返却の際は巻き戻してください」というレンタル屋お決まりのフレーズです。

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僕らのミライへ逆回転
監督:ミシェル・ゴンドリー
出演:ジャック・ブラック、モス・デフ、ダニー・クローヴァー、
ミア・フォロー、シガーニー・ウィーヴァー
(2008年/アメリカ)東北新社

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