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2008/10/14

『WALL・E ウォーリー』

人類最初の男女がアダム&イヴならば、人類最後、いやこの地球上における“最後の存在”を、僕らはウォーリー&イヴと名づけよう。とは言っても、彼らはロボットなんだけれど。

WALL・E ウォーリー』は、地球の終わりから逆算して導き出された、新しいタイプの創世記と言えるだろう。

もはや地球に人類など存在しない。彼らはゴミであふれた地球を見捨て、700年も前に宙の彼方へ脱出して行ってしまった。残されたのは廃墟になった文明の残骸と、おびただしいゴミの山。と、カメラが寄っていくと、画面に微かな動きあり。生き物?いや、一台のロボットがキャタピラをギーガー鳴らしながら懸命に作業に没頭中なのだ。かき集めたゴミを体内に詰め込んでは、装置を稼働させ、ギュッと圧縮。取り出した立方体を几帳面に整理整頓して重ねていく。

そんな折、突如上空から一機の探査機が現れる。凄まじい煙の中からはmacの最新機種のように真っ白な身体をシャープに光らせた、新世代ロボットが登場。何らかの使命を帯びたこの新参者は、ちょっとした物音にも早撃ちドカン!と過激な魅力を振りまいてみせる『猟奇的な彼女』だ。あとからオドオドしながら着いてくるお掃除ロボットは、警戒しながらも自ら進み出て挨拶を交わす。

「ウオリィ・・・」

すると相手もようやく譲歩して挨拶を返す。

「イヴ・・・」

彼らの口にする言葉は殆どそれだけ。

この地球でたったふたり。

ウォーリーとイヴの奇妙な生活が始まろうとしていた・・・

***************
このピクサー最新作は、ウィル・スミス主演の『アイ・アム・レジェンド』的状況をたった一台のロボットが孤独に体現しながらも、そこで言葉はほとんど使われず、サイレント映画を観ているかのような“無言”のシークエンスが延々と続いていく。まるで『ショート・サーキット』のようなこのロボット、ウォーリー。基本的に生命は無い。が、700年もの間ひとりで粛々とこの星で任務を遂行中の彼は、故郷を見捨て宇宙へ旅立った人類よりもよっぽど「地球人」という名にふさわしい。

しかし彼が人間ではないからこそ、僕らはこの無機質な物体に究極の人間性と愛情とを見いださずにはいられない。彼の一挙手一投足に笑みがこぼれ、気がつくとボロボロと涙があふれ出す。ひとつひとつの機械的な動きは言葉を廃することによってむしろ表情豊かに僕らの心に沁み渡ってくる。彼が生命体でないのなら、僕らの心を突き動かすこの不思議なエナジーは一体何だと言うのだろう。

たとえばこんな描写がある。

一日の作業が終わると、ウォーリーはたったひとりで自宅に帰り、自らのメンテナンスに余念がない。そして一息つくと、作業中に見つけたビデオデッキにVTRを入れテレビを付ける。

あふれ出す音楽、広がり行く映像。そこではもう何千回と映し出されたであろうミュージカル映画「ハロー・ドリー」が色彩豊かに映し出されている。

この世のものとは思えないくらいに楽しげな音楽に身も心も奪われながら、ウォーリーはそっと自分の身体に備わったスイッチを押す。ガチャリ。録音機能だ。

そして彼は、翌日の作業中もこの音楽を再生しながら、いつしか誰かの手をそっと握りしめる日を夢見ている。あのミュージカル・スターみたいに・・・。

人生で心奪われる場面に出逢うと、人は誰でも「この瞬間を忘れたくない」と切に願う。それは人間にとって生まれながらに備え付けられた反射運動で、僕らは日々の生活の中でついつい慣れっこになってしまいその大切な思考過程ついて意識することを忘れがちだ。ウォーリーは自身に組み込まれた思考回路を使って、この「感動のメカニズム」について非常に端的に教えてくれる。つまり、ミュージカルに感動し、そっとスイッチを押す、のだ。ああ、そうか。僕らはいつもこんなふうに心を振るわせ、そっと記憶のスイッチを押していたのだ。

ウォーリーはロボットである。でも僕らは彼のあらゆる動きにどういうわけか自分たち“人間自身”を投影し、そして日常のほんとうに取るに足らない、多種多様なことを再発見しては胸を震わせる。この映画は「自然を大切に」「地球を守ろう」といったテーマよりも、むしろそんな基本的で、だからこそ輝かしいシンプルな瞬間で満ちている。

世の中、放っておくとどんどん複雑化し、映画だって物語だって登場人物だって混乱をきたしていく。『WALL・E』はかくもあらゆること極端化=シンプル化して見つめることによって、そこに何らかの「突き抜けた芽吹き」を見出していく。ウォーリーに「人間性」を、そして「愛」を見つける。廃墟となった地球に「胚芽」を見つける。無重力空間に飛び出しとんでもない体型になった人間の瞳に「微かな情熱」と「郷愁」を見いだす。

そこが世界の終わりだからこそ、それがあり得ることのように思えてくる。そこが世界の終わりだからこそ、そこになにか新しいことが始まりそうな予感が芽吹いている。

ゆえに『WALL・E』は希望でいっぱいの映画なのだ。

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WALL・E ウォーリー
監督:アンドリュー・スタントン
出演:ベン・バート、エリッサ・ナイト、ジェフ・ガーリン、
フレッド・ウィラード、マッキントーク、シガニー・ウィーバー
(2008年/アメリカ)ウォルトディズニースタジオモーションピクチャーズジャパン

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