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2008/11/15

『レッドクリフ PartⅠ』

11月1日の公開日前後は各メディアで物凄い露出でした。 いまさらここで感想を述べる必要もないでしょうが、『PartⅡ』の公開も来年の4月に決定し、本年度の劇場公開作品で最高興収となるかもしれないらしいこともあり、とりあえず触れておくことにします。

 先日、とある著名な映画監督のブログを拝見させて頂くと、『M:I-2』は面白い!とする言葉が並んでおり、僕などはよく『M:I-2』を駄作の代名詞として使うことも多かったものだから、この言葉にはかなり意表を突かれたというよりむしろ、よくよく思い返してみれば『M:I-2』のことなどそう詳しく覚えていなくなっている自分に愕然とさせられた。ろくに内容を覚えていないのに作品のことを悪く言い始めたら、もうおしまいだ。そんな自分が情けなくなると同時に、いま時分、どんな人気映画やTV番組にも増して、この映画監督の『M:I-2』評を拝聴したくてたまらない気持ちになっている。日々、こういうハッとする言葉と出会えることは何事にも代え難い喜びだ。

 というわけで『M:I-2』と『レッドクリフ』。同じジョン・ウー監督が手がけた超大作である。今回、いったんハリウッドから身を引き、中国・香港での映画製作に回帰してしまったウーにとって、これは「赤壁の戦い」にも劣らない全人生を賭けた大一番となる。案の定、力が入りすぎて予算が回らなくなった。挙げ句の果てに身銭を切った。それも5億とも10億という額だとか・・・とすると、これはもう、最強のインディペンデント映画と言われても過言ではない。だから、当然、ハトは飛ぶわけである。むしろジョン・ウーの目論見は、三国志という題材にいかにしてハトが舞わせるか、ただそういうことに尽きたのではないかと思えるほどだ。

 そもそも軍師ふたりがあんなにもオットコマエなのに比べ、あの劉備幻徳があんなオッチャンでいいものか心配にもなってしまう。そこらへん、つまり超大作映画とはどの配役にフォトジェニックな俳優を持ってくるかでスクリーンサイズに耐えうる状況を逆算していくので、まあ、ウー監督がアップを多用したかったのはこのふたりだったと考えるのが筋だろう。

 そんな感じで幕を開ける、この無謀なウー版「三国志」。横山光輝の超大作漫画のように巻を重ねるわけにもいかず、映画監督たるもの、2時間か3時間でとりあえずの成果を上げなければならない。ここで彼が持ち出す切り口が面白い。

 つまり、これまで面識のなかったふたりの軍師が、一瞬にして互いの才覚を認めあい、そして互いに楽器など持ち寄ってコンテンポラリーなジャズ・セッションを披露する内に自ずと堅い絆で結ばれてしまう・・・。この極めて「挽歌」的な切り口が、あの膨大な歴史書「三国志」からベストサイズにコンパクトな映画用スペクタクルを掘り起こしている。

 また、あんなにもアクション=ダンスの大好きだったジョン・ウーが、今回のメイン俳優ふたりには決して踊らせない。ふたりは沈思黙考して軍略を練るばかり。しかしその頭脳の中で練られたシミュレーションがしなやかに具現化する中で、世界は明らかに彼らを中心にグルグルと回る。彼らはまるでチェスでも嗜むかのように、手を触れることなく持ち駒を自在に動かしていく。いわば、巨大な軍隊の中核として自陣を意のままに舞わせるのである。

 チャン・イーモウの歴史アクション(ダンス)がその指先までもしなやかに映し撮る演出なのに対し、ジョン・ウーのダンスは質実剛健。まるで一世風靡セピアだ。それに馬から振り落とされそうな態勢から繰り出される刃の動きも素速いが、これに対しカメラはその矛先の運命をジッと見守るだけでは飽きたらず、自らも機敏に反応して向かっていく。この速さと速さが相乗効果を巻き起こし、そこにアイディア満載のカット割りが挿入されることで、「史劇」を「現代劇」にアップデートしたかのような目新しい息づかいが刻まれていく。

 まあ、ここまで褒め言葉を並べた時点で、まだ山の中腹だ。「Part2」で暴風雨に煽られて崩壊する可能性だって大いにあり得る。いつのまにか主要人物がどさくさにまみれて二兆拳銃を構えてみたり、ずっと裏方に徹していた劉備幻徳などはサングラスをかけて半分やさぐれているかもしれない。いちばん怖いのは、予算が足りなくなって、アクションもCGも安っぽくなり、それでもハトだけはしっかりと飛んでいる、という状態だ。

 とにもかくにも「Part1」。最後が「後編につづく」だったこと、せっかくの上映館が「吹き替え版」だらけなことに目をつぶると、満足度の高い一本であることは間違いない。

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レッドクリフ PartⅠ
監督:ジョン・ウー
出演:トニー・レオン、金城武、チャン・フォンイー、チャン・チェン、
ヴィッキー・チャオ、フー・ジュン、中村獅童、リン・チーリン
(2008年/アメリカ=中国=日本=台湾=韓国))東宝東和、エイベックス・エンタテインメント

映画もいいですが、僕にとっての「三国志」といえば、高校の図書館で読みふけった横山光輝のコミックに尽きるわけです。そんなわけで、それぞれの三国志、それぞれのレッドクリフ。

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