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2008/11/03

『ウォー・ダンス』

ドキュメンタリーとフィクションの違いは何だろう。

ある者は事実から目を背けぬために「ドキュメンタリー」を選び取り、またある者はカメラでは決して捉え得ない真実を描くために「フィクション」を選び取る。すべての作家が形にする映像のうちには少なからずメッセージ性が存在し、映画作りとはつまり、厳選されたあらゆる素材を「ストーリー」という名の装置に乗せ、やがて一点透視図法のように浮かび上がってきたメッセージへ向けてそれらを勢いよく解き放つことに集約される。

そうやって映画作品を見つめた時、ドキュメンタリーとフィクションの境界はいとも簡単に消滅し、両者は同じ穴の虎となる。深刻なドキュメンタリーを「泣ける映画、泣けない映画」「笑える映画、笑えない映画」といった単純明快な論理でぶった切ることも可能となる。誰かが言うだろう。両者を一緒くたにするなどとんでもない筋違いだと。しかし僕にはそうやって臆するあまり両者を同じ土俵上で扱わないことこそ、作品に対する冒涜だと考える。優れたドキュメンタリーは感情の起伏に富み、冒頭のたった3分足らずで商業映画を木っ端微塵に吹き飛ばす爆弾を秘めているのだ。

そして、『ハンサム・スーツ』や『レッドクリフ』といった話題作がひしめく現在、あらゆる上映作を平等に見つめてみたところで、『ウォーダンス/響け僕らの鼓動』ほど胸を打たれ、観客の鼓動を高鳴らせ、そして明日を生き抜くための圧倒的な希望を感じさせてくれる作品は他にはない。

カメラはウガンダの北部に降り立っている。この国では不安定な状況が続いている。反政府ゲリラによる襲撃や虐殺によって大きな犠牲を強いられてきた住民たちは、いまやその多くが難民キャンプに保護を求めている。多種多様な傷を抱えた人たちがあふれるなか、そこにひとつの学校がある。朝になるとそこへキャンプ内の簡素な住居からたくさんの子供たちが集まってくる。そして授業の後には歌とダンスの時間がやってくる。いわゆる課外活動ってやつだ。

子供たちは活き活きと伝統芸能を舞い、奏で、歌う。先生が厳しく叱責する。「そんなことでは全国大会で太刀打ちできないよ!」。そう、彼らのダンスは大会予選を勝ち抜き、ウガンダにおける全国大会の切符を獲得した。出場校は南部の比較的安全な地域の学校ばかりだ。内戦の爪痕激しい北部の子供たちが全国大会に駒を進めるなんて、前代未聞のニュースだった。もちろん彼らにとっては出場するだけでも十分名誉なことだ。しかし彼らはその場で実力の差を見せ付けられ、屈辱を味わうことなんてまっぴらごめんだ。出るからには頂点を狙う。メンバー間でその目標は一致している。

カメラはメインとなる数人の子供たちの表情を追う。課外活動を離れると彼らは一気に現実へと引き戻されていく。誰もが内戦によって家族を亡くし、あるいは兄弟を誘拐されたりといった悪夢の体験者なのだ。なるほど、この映画の目論見は、これらの子供たちがいかにして芸術活動に興じ、自らのトラウマを克服していくか、ということに尽きるのだろう。

だなんて、知ったような口をきかせて本作を軽く観ていると、思わぬ返り討ちを食ってしまう。とにかくこの映画のバイブレーションは並大抵のものではないのだ。心の傷を抱えた彼らがその負のエネルギーを音楽へと注ぎ込んだとき、その音色は激しい怒り、そして哀しみのようにも聞こえる。しかしそれでは全国大会は戦い抜けない。彼らの猛特訓の日々は自らの精神性を暗黙の内に別次元へと高めようとする日々でもある。徐々に音色が変わり始める。「もっとうまくなりたい!」という想いがスクリーンいっぱいにあふれる。

中でも「ウガンダで1番の木琴奏者になりたい」という少年の研ぎ澄まされた目には圧倒される。自信に満ちあふれた演奏を聴かせる一方、彼は兄と共に武装勢力に誘拐された過去を持ち、兄とは未だに生き別れたままだ。彼の体内では未だに戦争は続いている。彼はこの哀しみを自分の中で昇華させるべく、ある日、拘束されたばかりの反乱軍兵士に会いに行く。面と向かって「兄を知りませんか?」「どうして人を殺すんですか?」と直接たずねるのだ。一言一言、慎重に言葉を選びながら。

つまり、彼はこのとき、怒りにまかせて銃を手にするのではなく、自ら進んで「インタビュアー」となるのだ。この年端の行かない幼い少年の途方もない勇気に圧倒された。思わず足が震えた。どんなに世界中を見渡してみたところで、こんなに心を沸騰させられるインタビューは他に存在するまい。

そんなバックグラウンドを背負いつつも、全国大会は容赦なく迫ってくる。そして遂に足を踏み入れた巨大な会場。でかい口を叩いていた少年も緊張に表情がゆがむ。強豪校が高飛車な視線を投げかけてくる。これを克服するところから全国大会が始まるのだ。ここからはまるで「スラムダンク」の世界だ。彼らは予想外に奮起する。盛り上がる観客。ダンスと音楽の神様が降臨しているとしか思えないパフォーマンス。高飛車な他校の生徒たちも「やるじゃんか!」と賞賛する。彼らの活躍は全国大会におけるひとつの達成であり、恰好の話題、そしてムードメイカーとなっていく。

そしてラストには思わぬ結果が。はたして彼らは優勝できるのか?

カメラは少年の表情を映し出す。「ウガンダで一番の木琴奏者になる」と語ったあの「インタビュー」の少年だ。彼の目にはいま、まばゆいばかりの光で満ちている。この国内のすべての争いごとを吹き飛ばしてしまいそうなくらいの神聖な光だ。彼はいつの日か、手に握りしめた木琴のバチでウガンダに平和をもたらすだろう。絵空事かもしれないが、この瞬間ならば、その奇跡と可能性に全てを委ねてもいいとさえ思える。これこそ映画の魔法だ。

繰り返しになるが、これは『ハンサム・スーツ』でも『レッドクリフ』でもない、ウガンダで起こった本当の話。フィクションとドキュメンタリーの境界を越えて、現在公開中の映画で最も泣けて、生きる勇気を貰える珠玉の物語だ。

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ウオー・ダンス 響け僕らの鼓動
監督:ショーン・ファイン、アンドレア・ニックス・ファイン
出演:ドミニク、ローズ、ナンシー、
(2007年/アメリカ)IMAGICA TV
11月1日(土)より東京都写真美術館にてロードショー

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