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2008/11/26

『ブラインドネス』

『シティ・オブ・ゴッド』にて祖国ブラジルの現状を酸いも甘いもすべてヴィヴィッドにぶちまけ、世界中からのおびただしい賞賛を浴びたフェルナンド・メイレレス監督。

続く『ナイロビの蜂』では果敢に国境を越え、人間の倫理観を揺さぶる“世界の裏側”の物語を紡ぎ、そして本作『ブラインドネス』では、さらなる恐怖と、観客を激震さす未知なる状況を描き出す・・・。

「謎の伝染病の蔓延によって、全人類が失明する。ただ一人を除いては・・・。」

ジョゼ・サラマーゴの「白い闇」を原作にした『ブラインドネス』は、まずこのように極限のシチュエーションがあたえられる。

なんと恐ろしいことか。人が視覚を失い、暗闇の中に生きねばならないなんて。最初の内はスクリーンが絶望で満ちる。しかし人間とは慣れっ子な生き物だ。感染者が次々に運び込まれる収容所で、失明者たちはごく当たり前のように組織を築き、社会を成し、そして別々の倫理コードがまかり通り、統治形態の異なる国家(部屋)が生まれる。国家間ではやがて貿易が行われるだろう。そこでは物々交換が行われる。次第に富める国と貧しい国との格差が生まれる。格差は人々の焦燥と恥辱と怒りを誘い、瞬く間に闘争心に火を付ける。勃発してみて人は初めて気づく。史上初めての争いごとも、きっとこのようにして火がついたのだと。

はたしてこの暗闇の世界の中で「唯一見える」ことはいかなる意味を持つのか。夫の感染、失明、隔離を受けて、ジュリアン・ムーアは自分も一緒に隔離してくれと訴える。自分も感染者だ、失明したのだ、と。

不思議なことに彼女だけは「見える」。これは「何故か?」と問うよりは、そういう運命なのだと解釈するしかない。彼女はこの巨大なシチュエーションに陥った世界の「傍観者」である。それはまたひとつの犠牲者でもあり、逆に可能性でもある。

彼女はこれら人間たちの実験場であらゆる悪行を目撃する。しかしその光景に決して絶望することはない。失明者たちがひしめく中をまるで空気のように漂いながら、「見える」という能力は彼女を傍観者として留め置くことも、能動的に行動させることも可能だ。人を救い、争いごとを解決し、あるいは物を盗み、怒りにまかせて人を殺めることもできる。感染者にとって彼女は未知なる存在だ。「見えざる者」は「見える者」が巻き起こすその行為の一切に気づくことさえない。暗闇の中で何かが起こる。その瞬間から暗闇は無ではなく、有となる。人々に初めて畏怖する心が生まれる。

彼女の知覚能力はこのシチュエーションにおいて「神の視点」として発動している。時にはイエス・キリストのように癒し、あるいはモーゼのように人々を力強く導きもする。まるで世界のベストセラー「聖書」がリミックスされて現代に降臨したような逸話の数々。はたまた、キリスト教だけに留まらず、他の宗教にだってこれに似た描写は大いにありうるだろう。なにしろこの物語は、宗教・人種・国籍を問わない「人類の実験」みたいなものなのだから。

しかしフェルナンド・メイレレスが語っているように、この「見えない」という現象は単なるフィクショナルなシチュエーションに留まらず、既に現代社会に広く蔓延した病でもある。無関心がはびこり、人と人との距離が離れ、簡単な意思疎通すら困難になる時代。僕らはいかにして絶望せず、現実を見つめ続けることができるだろうか?また、自らが「見えている」と過信することなく、その場に立ち続けられるだろうか?

「つぎは私かもしれない」

ラストシーン、ジュリアン・ムーアはふいに不安に襲われる。これは決して皮肉ではない。彼女なりの「戒め」なのだ。または一連の極限状態を目撃したからこそ生じ得た「覚悟」だったのかもしれない。

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ブラインドネス
監督:フェルナンド・メイレレス
出演:ジュリアン・ムーア、マーク・ラファロ、アリス・ブラガ、
伊勢谷友介、木村佳乃、ダニー・グローヴァー、ガエル・ガルシア・バルナル
(2008年/カナダ=ブラジル=日本)ギャガ・コミュニケーションズ

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