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2008/11/17

『ヤング@ハート』

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雑誌やネットでもご紹介する機会を失し、試写さえ見逃していたこの作品。いつもはメジャー系しか上映しない近所のシネコンにて、思いもかけずこのミニシアター系作品がかかるという奇跡的事態が発生しておりましたので、これはお客さんのどんな反応が観られるだろうか?と勢い勇んで行って参りました。

『私のマーロンとブランド』のフセイン・カラベイが言っていたように、もはやドキュメンタリーとフィクションの厳然たる垣根など存在しない。我々はそれが何であろうと、客席という名の断崖絶壁からスクリーンへ思い切り飛び込むべきなのだろう。そこには結局のところ「胸を打つ映画」と「打たない映画」があるのみ。だからこそ先日の『ウォー・ダンス/響け僕らの鼓動』に続き『ヤング@ハート』を取り上げることにドキュメンタリーを盛り上げようとする深い意図はない。「胸を打つ映画」を手探りで追い求めた結果、この作品に行き着いただけのことだ。

「ヤング@ハート」、それはマサチューセッツ州に1982年より現存する平均年齢80歳のコーラス・グループである。しかもただのコーラス隊じゃない。彼らは生身でロックを奏でる。

オープニング・アクトから衝撃的だ。御年90にもなろうかという老婆のシャウトから幕を開けるのだから。「あ”ー!!!」と咽の奥から絞り出される魂の叫び。クラッシュの"Should I stay or shuld I go"が装いも新たに会場を揺るがす。観客も思わず身体を仰け反って熱狂する。それはご老人の演芸大会などとは次元が違う。彼らは老体に鞭打って申し訳程度にしわがれ声を発し「わあ、元気なお年寄りなこと!」と拍手を贈られる程度の「健気な集団」などでは毛頭なく、紛れもないプロフェッショナルなエンターテイナーなのだ。余談になるが、先日、ローリングストーンズのコンサートに密着した『シャイン・ア・ライト』という映画を観たが、「ヤング@ハート」のメンバーの迫力はストーンズのそれとほとんど変わらない。そこには音楽の神様が降臨しているとしか説明の付かない、音楽と魂との激しい共鳴が巻き起こっている。

監督であるスティーヴン・ウォーカーのナレーションが挿入される。

「私は英国で彼らの海外公演を見て衝撃を受け、こうしてアメリカまでやってきて、彼らに6週間、密着することにしました」

ウォーカー監督の声はちょっと人あたりが良すぎるというか、上記の超人的なパフォーマンスと並べるとあまりに凡庸過ぎて多少イラッとくるほどだ。それに気づいたのか、彼のナレーションは影を潜めていく。代わりに彼はカメラの背後へと巧みに沈降し、ヤング@ハートが音楽に取り組む様子を克明に写し撮っていく。それは世にも偉大なロックンロールの名曲を高齢のメンバーが果敢に換骨奪胎していく過程でもある。

新たなレパートリーとしてソニックユースの"Schizophrenia"が選曲されると、メンバーは思わず「うへえ」と耳をふさぐ。ジェームズ・ブラウンの"I Got You"ではノリノリになりながらもソロ担当のご老人がそのファンクなノリについて行けない。そしてアラン・トゥーサンの"Yes We Can Can"の複雑な節回しにはメンバー全員が四苦八苦する一方で、これが撮影された2007年の時点ですでに彼らはバラク・オバマの勝利を確信していたかのような先見性がスクリーンを覆い尽くす。

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そして極めつけはボブ・ディランの"Forever Young"と、コールドプレイの"Fix You"だ。高齢のメンバーには常に死というものが隣り合わせに存在する。自分にも、仲間にも。僕がこの映画の中のハイライトとして掲げたいのが、彼らなりに“哀しみ”を乗り越える瞬間だ。そのとき、彼らは最も美しい音を奏でる。涙で歌えなくなることも決してない。独りよがりな“弔いの歌”となることもない。彼らの思いは楽曲となって観客の心を震わす。すべてを見越した、揺るぎない態度が力強い生の躍動となって迫ってくる。

ふと、音楽にジャンルなど存在しないことに気づいた。たった1フレーズ、彼らの口をついて出た瞬間、すべての垣根は取り払われ、ただ「彼らの奏でる音楽」という唯一無二の言語が響き渡っていく。その時代時代で人々の心を捉えてきた多種多様な歌詞には、ご老人たちの70年~90年分の生の重みが付与され、それが「ラブ」であっても「I」であっても、それを発する肉体が、まさに全人生でもってこの歌詞を擁護してやまないのだ。それは「生」のみならず「死」をも包含し、もはや史上最強の音楽と化す。

ロック、R&B、ファンク、パンク、オルタナティヴ、フォーク、はたまたクラシックやオペラであろうとも、すべてが宗教を越えた聖歌のように聞こえてくるのもきっとこのせいだ。古代よりある種の絶対的な存在を人々がそれぞれの文化や価値観に照らして「神」と呼んだように、僕らは音楽についても同じことが言えるのだろう。入り口は様々でも結果的にそのメロディーが人の心に触れた瞬間、人はそれを音楽と呼ぶのだ。

もしも東京都心のミニシアターのみならず、ご近所のシネコンで『ヤング@ハート』に出会える機会があるならば、悪いこと言わないからぜひ体感してみられることをお奨めする。目先の悩みを吹き飛ばす、強力な「生」のパワーに触れられること間違いなしです。

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ヤング@ハート
監督:スティーヴン・ウォーカー
ヤング@ハートの面々:アイリーン・ホール、レニー・フォンテイン、フレッド・二トル、
ボブ・シルマン(指揮)、スタン・ゴールドマン、スティーヴ・マーティン、ドーラ・B・パーカ
(2007年/イギリス)ピックス

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