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2008/11/04

『かけひきは恋のはじまり』

9.11テロ、イラク戦争と全世界が激動にさらされてきたブッシュ政権時代がようやく終焉を迎えようとしている。

人々が、とりわけアメリカ国民が誇りや希望を取り戻して前に進んで行かなければならないこの時代、ショーン・ペンは『イントゥ・ザ・ワイルド』であらゆるしがらみからの脱皮と力強い再生を謡い、そしてこれまでスティーブン・ソダーバーグと共に制作会社セクションエイト(兵役不適合という意味)作品として様々な社会的・政治的メッセージを発信し続けてきたジョージ・クルーニーは、映画界における一時代を牽引したセクションエイトをあっさりと解散させ、新たに設立した制作会社スモークハウスのもとで、古き良き時代を懐古したウェルメイドな最新監督作『かけひきは恋のはじまり』を発表する。

そのファーストカットに触れただけで「まさか!」と思う。なんとコミカルで楽しげな作風。しかしこのアメリカにとっての重要時、クルーニーがこの作品に何らかのメッセージを託していないとは到底思えない。はたして彼の目論見とは何だったのだろうか?

舞台は1920年代のアメリカ。

大学リーグの興隆に比べて、プロ・リーグがその組織の脆弱性ゆえあまりに寂れて衰退していた時代、主人公の中年男性ドッジ・コネーリーの所属するアメフト・チームも例外ではなく、ある日、無惨にもチームメイトの全員解雇を告げられる。

職安に相談してもこれまでアメフト一筋で生きてきた彼には他に秀でたスキルがない。屈辱的な言葉を投げかけられた後、彼は思う。「やっぱり俺はアメフトに賭けるしかないんじゃないか?」。意を決した彼の向かった先は、大学リーグの花形選手カーターの滞在先だった。ドッジの妙案はただひとつ。第一次大戦でドイツ軍の部隊をたったひとりで降伏させたというこの学生選手のプロリーグに引き入れ、一発大きな花火を打ち上げること。彼はアメフト人気を盛り上げるべく大きな賭けに出たのだ。そしてその目論見は大当たり。これまでとは打って変わってあふれんばかりの観客がスタジアムへと押しかけてくる。ついにプロ・アメフト界に輝かしい黄金時代がやってきた!

だがそこにはカーターの英雄伝説の真偽を暴こうと巧妙に近づいてくる敏腕女性記者レクシー・リトルトン(レニー・ゼルウィガー)の姿が。

互いに警戒しあうドッジとレクシーだったが、やがてふたりは強引な駆け引きの末に、微妙な心の変化に気づき始める・・・。

ランディ・ニューマンが奏でるコミカルなピアノ・ジャズがスクリーンを余すとこなく駆け回り、クルーニー&ゼルウィガーの安定感あり、かつ、そこからはみ出してクルクルと表情を変えながら遊んでみせる余裕ありの、まさに空気の流れを完全に読み込んだ矢継ぎ早の演技が、見る者の表情をこれでもかというほど弛緩させてくれる。

策略あり、対決あり、裏切りあり、爆笑ありで巧妙に進んでいく物語。だが最後にドッジは泥まみれになりながら一進一退を繰り返す壮絶なプレーのさなか、超満員で興奮の頂点に達したスタジアムをぐるりと見回し、チームメイトに笑顔でふと、こう問いかける。

「なあ、楽しんでるか?」

この先、アメフト業界がどうなったかは知らないが、1929年の世界恐慌によって例外に漏れず彼らにも怒濤の混乱が降りかかっていったことだろう。でもきっと、このドッジという、馬鹿なのか男気あふれているのか分からぬ人間は、どんなに困難な時代であろうとも、決して変わらず「楽しんでるか?」と仲間に問いかけると思うのだ。

それは同時に、大統領選を経て新たな時代を迎えるアメリカ国民へ向けた尊いメッセージのような気がして、どうしようもなく胸が震えた。

『かけひきは恋のはじまり』はつまり、そんな映画なのだ。

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かけひきは恋のはじまり
監督:ジョージ・クルーニー
出演:ジョージ・クルーニー、レニー・ゼルウィガー、ジョン・クランシスキー、
ジョナサン・プライス
(2008年/アメリカ)東宝東和
11月8日(土)日比谷みゆき座ほか全国ロードショー

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