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2008/12/21

『PARIS パリ』

今年の10大ニュースを選べと言われたら、イギリスから日帰りでパリを訪れたことは外せない。これまで海外といえばイギリスしか行ったことがなかった僕にとって、フランスは2カ国目の外国となった。初めて見るルーブル、エッフェル塔、凱旋門はそれなりに感動的で、しかし観光客しかいない真夏のパリで僕がこう思ったのも事実だった。

「本当のパリは・・・どこだ?」

そんな疑問に答えるかのように一本の映画が封切られた。その名もストレートに『PARIS パリ』。監督をつとめるのは、パリ郊外に生まれ、この街の日常をずっと見つめ続けてきた名匠セドリック・クラピッシュ。パリといえば世界の名匠たちが紡いだ『パリ、ジュテーム』という短編集もあったが、本作はそんな「外からの視点」とは一線を画し、この街を熟知した彼だからこそ撮れるパリの横顔、そして彼だからこそキャッチできる、ときに辛辣でちょっとだけほろ苦くもある独特の空気が詰まっている。

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この街は主人公で満ちている。成功率の低い手術を控えた若者(ロマン・デュリス)、彼の姉で3人の子供を持つシングルマザー(ジュリエット・ビノシュ)、毎日のように顔を合わせる市場の人たち、テレビ番組の収録を控えた大学教授、彼が恋いこがれる女生徒、パン屋、そしてパリの街を夢見るカメルーンの若者・・・

何となく予想はしていたが、クラピッシュの選び取った方法論は群像劇だった。もちろん彼はそれだけに留まらず、この街を描くにあたり効果的な仕掛けを用意周到に盛り込んでくる。

たとえば、登場人物たちは職業も年齢も住む地域もバラバラ。歴史学者は常に変化を受け入れてきたこの街の歴史をTVカメラに向かって蕩々と語り、パン屋の女主人はアルバイトの女性に向けて平然と人種差別の言葉を口にする。ふと背後に名高い観光名所がごく普段着の恰好で映り込んでくる。距離的に出逢うはずもない人と人、場所と場所とが思わぬ街のシンボルの助けを借りて同じアングルに同居する。それらが繋ぐ点と点、今と昔、昨日と明日、他人と私、愛と嫌悪、差別と理解・・・そして生と死。

まるでひとりの人間の精神分析を垣間見ているかのよう。彼らの存在一つ一つがこの街の重要なパーツを担っている。誰ひとり欠けたって、どのエピソードが欠けたってパリという名のパズルは成立しない。

画竜点睛。最後に観客それぞれの持つ「パリ観」を付け加えることで、きっとこの映画は完成するのだろう。いや、歴史学者の言を借りれば古い文化はどんどん新しい文化に取って代わられるから、この街の印象とやらも刻々と変化しつづけていく。そのたびに映画もアップデート。つまりはこの映画、決して完成することがない。

それが実感できた瞬間、辛辣で饒舌なパリは喧騒の中に消えていく。その街並みは少しだけ優しい温もりを放ちながら、静かに夜の明滅のときを迎えているはずだ。

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PARIS パリ
監督:セドリック・クラピッシュ
出演:ジュリエット・ビノシュ、ロマン・デュリス、ファブリス・ルキーニ、
アルベール・デュポンテル、フランソワ・クリュゼ、カリン・ヴィアール
(2008年/フランス)アルシネテラン

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