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2008/12/20

『ワールド・オブ・ライズ』

テロリスト、CIAエージェント、爆破、俯瞰とクローズアップ入り乱れての監視映像とくれば、これはもう98パーセントくらいの確率で弟トニー・スコットのお家芸だったはずだが、何を思ったのか『ワールド・オブ・ライズ』では兄リドリーがそれをやる。

彼の心意気はオープニングから激しく燃焼する。今やテロの可能性など世界中に満ちあふれているにもかかわらず、彼がまずその標的に定める場所は、よりにもよって祖国イングランド。それもマンチェスターだ。はたして祖国の街角を吹き飛ばした彼の心境たるやどれほどの痛みを伴うものだったか。あるいは案外、ゴジラにも似たカタルシスを感じていたりもするのだろうか。

ともかくもスコット卿の最新作『ワールド・オブ・ライズ』はテロ時代の情報戦を描いたサスペンス・アクションだ。謎のベールに包まれた過激派テロ組織を追ってCIAが追跡劇を繰り広げ、悪戦苦闘する。

ハイテクを駆使した監視、盗聴、拘束、尋問をもってしても、CIAは懸案のテロ組織の消息を掴むことができない。それもそのはず、彼らは今やデジタル時代の裏をかき、それぞれが原始的な手段で直接情報を伝達しあっている。ネット依存の現代に叫ばれる「書を捨てよ、街へ出よう」精神を、テロリスト側が我先にと実践しているのだ。このアナログなコミュニケーションこそがデジタルなそれを遙かに凌駕し、より確実で効果的なテロリズムを実行可能とする。

苦汁を舐める恰好となったCIA。優秀な諜報員フェリス(ディカプリオ)を中東に潜伏させ情報収集にあたらせるも、常に安全な場所からノートパソコンと携帯電話を駆使して命令をくだすベテラン局員のホフマン(ラッセル・クロウ)とは、なかなかスムースな意思疎通が図れない。

行き詰まったフェリスの前に、第3の勢力が現れる。捜索の地・ヨルダン政府の情報局長ハニ・サラーム、その人だ。知性と恐怖とで今の地位を勝ち得てきた男。怒らせるとどんな手段に訴えてくるか分からない。ヨルダン側に協力を要請するフェリスに対し、彼はこう念を押す。

「絶対に嘘はつくな」

この映画のタイトル『ワールド・オブ・ライズ」(原題は"Body of Lies")というフレーズが重要な意味合いをもって響き渡る瞬間だ。そして彼は「中東では信頼が最も重要なのだ」とも語る。

フェリスにとってサラームは味方にもなるし敵にもなりうる。ひとつ貸しを作ると後で骨までしゃぶられるかもしれない恐ろしい存在だ。一方、フェリスの上司ホフマンは、大義名分のためなら多少の犠牲はいとわない。彼の仕掛けたミッションは、ときに味方の人間さえも欺き、仲間であるはずのフェリスを絶体絶命の危機に陥れたりもする。

まさに「嘘」と「真実」は三者三様。それぞれの状況下でその定義は刻々と変貌していく。結局は「信じられるか、否か」を一瞬で見極める判断力こそが全てを決める。

リドリー・スコットはいつしかテロや中東問題といった題材よりも、情報と信頼をめぐる土臭い闘いに焦点を合わせていく。そこに政治的な主張、平和へのメッセージなどは存在しない。愛と希望も薄い。むしろこの作品のテーマは、文化や価値観や立場を越えていかにこの「信頼」を維持できるのかという、人間にとって普遍的な領域へと集約されていく。

それこそリドリーが脚本家ウィリアム・モナハン(本作の脚色も担当)と共に紡いだ『キングダム・オブ・ヘブン』を彷彿とさせるシーンも登場し、スタイルこそ違え、両作品が「信頼」をテーマにした連続モノでさえあったかのような印象も残す。

不幸にも金融危機に揺れるアメリカで本作は巨額の赤字を出してしまった。けれど71歳にして一定のクオリティをキープしつづける巨匠リドリー・スコット作品としては安定感のある仕上がり。製作者への信頼が維持できたかどうかは知らないが、少なくとも観客へのそれは及第点と言える。後味はそれほど良くないが、その割り切れない複雑性こそがリドリーの旗印。トニー・スコットには成しえなかった正真正銘の「リドリー流」が、ここには刻まれている。

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ワールド・オブ・ライズ
監督:リドリー・スコット
出演:レオナルド・ディカプリオ、ラッセル・クロウ、マーク・ストロング、
ゴルシフテ、ファラハニ、オスカー・アイザック、サイモン・マクバーニー
(2008年/アメリカ)ワーナー・ブラザーズ映画

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