« 全米ボックスオフィスDec.26-28 | トップページ | 08年アクセス・ランキング »

2008/12/30

『そして、私たちは愛に帰る』

Aufderanderenseit_2 
2年前、世界に溢れた「ぬるま湯」的な恋愛劇に辟易していた僕を激しく突き動かしたのはドイツ映画『
愛より強く』(英題"Head on")だった。生き遅れてしまった主人公たちのあまりにパンキッシュな生き方に感動すら覚え、彼らが不器用にも年を重ね、何かを知り、何かを捨てていく様に綺麗事だけではない人間の壮絶な生き様を感じたものだった。

ファティ・アキン、この名を絶対に忘れまいと肝に銘じた。このトルコ系ドイツ人監督は、必ずいつか世界の頂点に立つ。世界が絶望的な閉塞感にさいなまれたとき、そこに風穴を開けるのはこのような鋭い錐(きり)のような感性に違いない。

・・・と半ば覚悟のようなものを腹に据えて鑑賞に挑んだ新作『そして、私たちは愛に帰る』(英題"The Edge of Heaven")。やはりアキンっぽいパンチの強さは顕在ながらも、それを突き抜けた慈愛の深さを感じさせ衝撃を受けた。伝え聞いたところによると、子供の誕生が彼の作風を変えたらしい。カンヌ映画祭では脚本賞を受賞。ドイツ・ブレーメン、ハンブルクとトルコ・イスタンブールを繋ぐ3組の家族の姿を描いたドラマだ。

物語は多角形のように同時発生する。

●トルコ系ドイツ人の父と息子。ネジャットはハンブルク大学で教鞭を執っている。ブレーメンに住む彼の父は人生の孤独を埋めるためトルコ系の娼婦に結婚を申し込む。が、ある日、突発的な出来事によって彼女を死なせてしまう。彼女にはひとり娘がいた。

●一方、イスタンブールで反政府デモが起こった。警察の介入で暴動となる現場。そこで若き女性アイテンは逃走中に携帯電話を失う。その着信記録から大勢のシンパが検挙される。彼女はもはやこの地に居られなくなった。

●パスポートを偽装しドイツへ逃げたアイテンは大学構内で寝泊まりするうち、大学生ロッテと知り合う。アイテンを英雄のように見つめ、自宅へと招き入れるロッテに母はいい顔をしない。しかしある日、些細なことをきっかけにアイテンは警察に拘束される。不法滞在者の彼女は政治亡命の訴えもむなしく、祖国へ送還されてしまう。そこでは厳しい刑罰が待っている。彼女を救うべくロッテは母の制止を振り切ってトルコへと旅立っていく。

●辿り着いたイスタンブールで、ロッテはドイツ語を話すひとりの男性と出逢う。それはネジャットだった・・・

The_edge_of_heaven
ドイツとトルコとを幾たびも往復しながら綴られるストーリー。その軌跡は左右対称、幾何学模様のごとくにも形を変えるが、やがてすべての刺々しい角度を徐々に削ぎ落とし、目の覚めるような円形を帯び始める。

そこにはトルコ系ドイツ人、ファティ・アキンとしての複雑なアイデンティティのあり方が見て取れるが、それを決して個人的な想いに留めることなく、ふきだまったエネルギーを外界へと放出するかのような圧倒的な意志が感じとれる。

トルコには人権をめぐる問題が幾重にも存在する。ファティ・アキンのドキュメンタリー『クロッシング・ザ・ブリッジ』でも描かれていたが、トルコはあらゆる意味で西洋と東洋との中継地点。様々な文化が衝突を繰り返し、おびただしい正と負のエネルギーを生み出している。そしていま、トルコは国民の大多数がイスラム教を信仰していながら、EUへの加入を申請中だという。いわばヨーロッパというひとつの巨大な家族へと編成されようとしているのだ。

このような政治的な巨大なドラマが進行する一方、本作は“天国のほとり”にたたずんだ3組の親子が、人種や宗教や国家、世代といった枠組みを超えて、新たに精神的な家族の再編を目指して歩み始める。

しかし「円」は決して完成することはない。ファティ・アキンはその曲線を結びつけることなく最後にあえて余白を残しているように思える。その証拠に、プロット上、出逢うべき人たちは、結局出逢えずに終わる。この映画の可能性はここにあると思う。この世に完璧なものなど存在しないのだから。

生きることに不器用な人たちが必死になって「円のようなもの」を描く。その過程にこそ、意味は宿るのだ。

↓この記事が参考になったらクリックをお願いします。

そして、私たちは愛に帰る
監督:ファティ・アキン
出演:バーキ・ダヴラク、ハンナ・シグラ、ヌルセル・キョセ、
トゥンジェル・クルティズ、ヌルギュル・イェシルチャイ、パトリシア・ジオクロースカ
(2007年/ドイツ=トルコ)ビターズ・エンド
12月27日(土)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー

------

TOP】【過去レビュー】【DIARY

|

« 全米ボックスオフィスDec.26-28 | トップページ | 08年アクセス・ランキング »

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/137483/43574997

この記事へのトラックバック一覧です: 『そして、私たちは愛に帰る』:

« 全米ボックスオフィスDec.26-28 | トップページ | 08年アクセス・ランキング »