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2008/12/25

『フロスト × ニクソン』

1977年、メディアの歴史が動いた。英国人コメディアンにしてテレビ司会者デヴィッド・フロストが自身の企画するインタビュー番組に招いた相手は、なんとあのリチャード・ニクソン元大統領だった。

片や英国ショウビズ界の人気者でありながら、更なる成功を求めてアメリカ進出を企てる男。片や72年のウォーターゲート事件によって失脚し、それでもいつか必ず再浮上しようと野心をたぎらせる男。

フロスト×ニクソン』で描かれるのは、テレビという名の格闘技リングでガチのインタビュー勝負に挑む両者、そして両陣営の軌跡だ。そこに飛び交う言葉の応酬。ジャブ、フェイク、ストレート、そして巧みなアッパーカット!伝え聞くところによると、その当時、なんと4500万人もの視聴者がその成り行きを見守ったという。はたして試合終了のゴングと共にリングに立ち続けていたのは、どちらだったのか!?

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2006年に上演された舞台版に続き、『クィーン』でブレア首相を演じたマイケル・シーンがデヴィッド・フロストを、米ベテラン俳優フランク・ランジェラがリチャード・ニクソンを演じる。監督には『アポロ13』『ダ・ヴィンチ・コード』のロン・ハワード。叙情性を削ぎ落としたドキュメンタリー・タッチが当時の空気をリアルに再現する。

中でも注目すべきは、これまた舞台版に続き脚本を手がけたピーター・モーガンだ。ここ数年、『クィーン』『ラストキング・オブ・スコットランド』『ブーリン家の姉妹』と立て続けにヒット作を手がけ、英国で最高峰の脚本家と賞賛されるモーガンは、今回も独自の感性をフル稼働させて「歴史の動いた瞬間」に瞠目する。

思い返すと、『クィーン』では「英国女王」という燦然と輝く地位に君臨しながら今や国民に矢を放たれかねない存在となったエリザベス女王を「鹿」に象徴させ、想像力を働かせなければ見えてくるはずもない彼女の感情の揺れを“一瞬の表情”で切り取って見せた。

『フロスト×ニクソン』でも幾多のディテール群にスポットをあて、主人公らの感情を巧みに切り取っていく。イタリア製の靴、小切手、電話、鼻の下の汗、下唇を噛むクセ、控え室。これらの描写を媒介として、フロスト、そしてニクソンという史実も虚構も越えたキャラクターたちを映画の中にリアルに息づかせていくのだ。

長年テレビで仕事をしてきたフロストはもとより、ニクソンは「かつてケネディにラジオでは勝ち、テレビで負けた」経験を持つ。苦杯をなめた彼はいまやカメラ映りの弱点さえも熟知し、準備は万全だ。いくら歴史の表舞台から敗退した存在とはいえ、かつては大統領だったこの男。本気になった彼は猛獣のように吠え、相手にまったく付け入る隙を与えない。

だが防戦一方のフロストに絶好のチャンスをもたらすのも、紛れもない「テレビ」の力なのだ。その奇跡は果たしてどこから降って湧いてくるのか。当時の目撃者となった面々(俳優らが演じている)がインタビューでこんな興味深いフレーズを口にする。

「我々は一瞬をつかまえたんだ」

奇しくも『フロスト×ニクソン』に底知れぬリアリティを与えたのも、ピーター・モーガンによる“一瞬をつかまえる”描写であり、1977年当時、デヴィッド・フロストとその仲間たちが歴史を動かしたのも、結果的に“一瞬をつかまえた”がゆえだった。どうやら僕ら視聴者=観客というものは、この「一瞬をつかまえる」という職人技に激しく胸を高鳴らせる存在らしい。

しかしテレビと映画は大きく違う。

映画が“主観”を醸成するのに対し、テレビは“客観”を醸成しようとする。あるいはそう見せかけようとする。すべての物事の真価が“一瞬”に凝縮される世界。それがテレビだ。曖昧な答えなら出さぬがマシ。白か黒か。ゼロかイチか。何にも増してはっきりとした結論を求めたがる。もちろんそこには明らかな功と罪とが同居する。その両極面はいまだに多くの課題を抱え、僕らの背中に大きくのしかかっている。

歴史上のならず者とされるリチャード・ニクソンが徐々に血の通った人間に見えてくるのも、この映画がテレビの仕掛けた「トラップ」を観客にしかと垣間見せてくれるからだ。

『フロスト×ニクソン』は世にもスリリングなエンターテインメントであると同時に、2008年という歴史のターニングポイントに産み落とされた、重要なるメディアの検証装置と言っても過言ではない。

はたしてあなたは、もはやテレビなど死にゆくメディアだと笑うだろうか?それとも歴史は常に繰り返されるものと、この映画に耳目を傾けるだろうか?

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フロスト×ニクソン
監督:ロン・ハワード
出演:マイケル・シーン、フランク・ランジェラ、ケヴィン・ベーコン、
レベッカ・ホール、オリヴァー・プラット、サム・ロックウェル
(2008年/アメリカ=イギリス)東宝東和

 

社会はサスペンスの題材としては事欠かないリチャード・ニクソン。同日公開の『ウォッチメン』にも、「ニクソンが失脚していない80年代」という仮想設定で、なんともダークな世界が広がっています。

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