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2009/02/18

グラン・トリノ

 人生長らく連れ添った妻に先立たれ、マイホームにひとり取り残されてしまった頑固な爺様、ウォルト。それが今度のイーストウッドだ。朝鮮戦争へ従軍した過去を持つ。気性は荒々しい。二言目には悪態が飛び出す差別主義者、というか他人の成すことすべてが気に入らない。葬式中もこめかみがピクピクとうごめき、癇癪玉はもう発火寸前。こどもや孫たちも手を焼き、老後の面倒を誰が見るかでも「知~らない~」っと押しつけ合う。唯一、教会の神父が気にかけて訪ねてくれるが、「お前のような若造になにがわかるってんだ!」と追い返す始末。そんなジジイ。

 そんな彼にも宝物がある。ビンテージカー“グラン・トリノ”。天気の日には表に出して念入りに調整する。まさに完璧なフォルム。ピカピカの車体。軒先でビール片手にじっと見つめて、爺様ひと言。

 「完璧とはこのことだ・・・」

 そんな矢先、ウォルトは全く意図せずしてお隣に住むアジア系“モン族”一家の青年のピンチを救ってしまう。親戚一同から感謝されるウォルト。翌日に目が覚めると軒先にたくさんの感謝の品が並べられている。

 「やめてくれ、そんなつもりじゃなかったんだ」

 かくして、ウォルトとモン族の不思議な異文化交流が幕を開ける・・・。

 今度のイーストウッドは「笑える」。まずはこの点において衝撃的だ。彼が息子夫婦に老人ホームのパンフレット各種を突きつけられ頭を抱えるシーンなんてグラントリノ以上のビンテージ映像として永久保存したいくらいだ。

 でもやはりイーストウッド。猛々しい。命知らずの地元の若造たちは案の定、彼が何者なのか知らずに「このジジイ!」と突っかかっていくが、観客は彼がただのジジイとして分類されるにはあまりにも「アウトロー」あるいは「究極のアウトサイダー」であることを知っている。無鉄砲な若造たちに対して「やめておけ!そいつは“許されざる者”だぞ!」と忠告したくもなるだろう。そして案の定、ぶち切れた彼は遂に散弾銃などをちらつかせ、思わぬ「荒野」を出現させそうになったりもするわけだ。

 だがここはアウトローな荒野でもなければ、西部開拓時代でもなく、他民族が暮らす住宅街だ。怒りが頂点に達するともう誰にもとめられない、そんなウォルトの姿は、過去のイーストウッド作品の主人公が時代や場所をわきまえずにタイムワープしてしまった迷い子のように見える。

 そうした紆余曲折を経ながらも、いつしか隣に住むモン族の若き姉弟と深い絆で結ばれていくウォルト。はじめは「あんなゴキブリどもが住み着きおって・・・」と怒り心頭していた彼だが、彼らとの交流を通してモン族がどうしてこの国にやってきたのか、その経緯を知る。ウォルト自身もそのフルネームはウォルト・コワルスキー。詳細は明らかにはされないが、彼の先祖も何らかの理由があってこの国へやってきたであろうことは容易に想像が付く。そしてウォルトのマイホームの玄関先には、いつも合衆国の国旗がはためいている。 

 かくも『グラン・トリノ』は観客に対して優しさに満ちた手触りでほんとうの「家族」について問いかける。それこそ米国民が建国以来の精神を語り継いできたように、モン族は先祖代々の風習を語り継ぎ、「老い」や「死」といった未知なるアウトロー(敵)との対峙を余儀なくされたウォルトもまた、血縁や文化や人種や宗教を越えて「語り継ぐ」相手を得る。あるいはその精神的絆は家族さえも越えるのかもしれない。

 そのとき初めて、倉庫の中でくすぶっていた愛車「グラントリノ」は、老人の懐古趣味ではなく、後世へ伝えるべき美学や信念として像を帯び始める。眺めて楽しむだけのビンテージカーではなく、はじめて走る喜びを得るのである。

 と、ここまできてセルフパロディかと思われていた本作『グラン・トリノ』は、クリント・イーストウッドがこれまで追い求めてきた「過去への贖罪」「和解する魂」を主軸とした作品群と何ら変わりがなかったことに気づかされる。そしてかつての戦争で死に遅れたウォルトは、もはや英雄的な死など叶うはずもなくなったこの現代において自らのダンディズムをきちんと完結してみせる。死の美学ではなく、生の美学として。これはイーストウッド自身が長らく追い求めてきたテーマが時代遅れなどではなく、むしろあらゆる時代においても普遍であることを証明する遺言でさえあるのかもしれない。

 イーストウッドはこれが最後の出演作であると名言しているが、そもそも「最後」という言葉は歴史を後から振り返ったときに成立する概念であるとしても、これがある意味「さよなら」をテーマにした作品でもあることには変わりない。俳優イーストウッドがもう一つの家族とも言うべき観客へ向けて放つ渾身のメッセージ。それに触れたとき、先ほどまで爆笑していた顔はにわかに引き締まり、どうしようもなく魂が揺さぶられた。

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グラン・トリノ
監督:クリント・イーストウッド
出演:クリント・イーストウッド、ビー・バン、アーニー・ハー、
クリストファー・カーリー
(2008年/アメリカ)ワーナー・ブラザーズ映画

『グラン・トリノ』ではクリントとカイルのイーストウッド父子が共同で主題歌「Gran Torino」を手がけています。残念ながらサントラは発売されてない模様ですが・・・巷ではカイルの新譜がリリースされたばかりで、かつてミュージシャンになりたかった父の夢を息子がどう継ぐのか、期待が高まります。

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