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2009/02/07

リチャード・ジェンキンス

 まずはアカデミー賞の主演男優賞にノミネートされている5人を見てみよう。

 起死回生に燃える元米大統領リチャード・ニクソンを圧倒的迫力で演じた『フロスト×ニクソン』のフランク・ランジェラ。 アメリカ史上初めて同性愛者であることを公表した政治家ハーヴェイ・ミルクを体現した『ミルク』のショーン・ペン。80歳の身体で生まれどんどん若返っていく男の生涯を生きた『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』のブラッド・ピット。身体の蝕まれた中年レスラーが再び人生のリングに挑もうとする『The Wrestler(原題)』のミッキー・ローク。そして・・・

 『The Visitor(原題)』のリチャード・ジェンキンス。

Jenkins_2 

 そう名前を告げられてもピンと来ない人が多いだろう。顔を見ても「ああ、どこかで見たような・・・」と首をかしげ、それでも決定的な作品名が思い当たらず、「誰だっけ・・・?」と3日間くらい考え込んでしまいそうな希有な存在。

 しかしこの人、もはや映画界では「なくてはならない名バイ・プレイヤー」、あるいは「コメディからシリアスまで何でもこなす性格俳優」として定着している。日本で言えば、そうだな・・・柄本明、角野卓造といったところか。

 いま二人を挙げたことに理由がある。まず彼の見た目は少し角野卓造っぽくないか(ただしジェンキンスは身長185mほどあるのだが)?そして柄本明に関して言えば、かつて『Shall we ダンス?』で彼が演じた探偵の役をリメイク版『Shall we Dance? シャル・ウィ・ダンス?』において演じたのが、他ならぬリチャード・ジェンキンスだった。捜査を進める中で次第に社交ダンスの魅力に取り憑かれ、主人公の挑戦を影ながら応援してしまうという憎めないヤツ。これは本作の中で最も技量を求められる役と言える。こんな隙間産業的な役柄を嫌味なく実に飄々と演じてしまうところが、人々に「なくてはならない人」と言わしめる要因だろう。

 いや、ハリウッドの志賀廣太郎、とも言えるような気がしてきた。

1947年生まれ。地方劇場の芸術監督を務めていたこともある。舞台経験もシェークスピアからベケットまで幅広い。70年代頃からテレビや映画に顔を出し始めるが、多くの人々が彼を認識したのは大ヒットTVシリーズ『シックス・フィート・アンダー』(2001~2005)だった。

 彼はロサンゼルスで葬儀社を営むフィッシャー家の大黒柱、ナサニエル・フィッシャーを演じているのだが、この人、第1話目で交通事故であっけなく死んでしまう(この辺、かなりジェンキンスっぽい)。残された家族は次から次に明かされる亡き父の真実に大いに翻弄されるという案配。ナサニエル自身も幾度も亡霊となってエピソードに割り込んでくる。

 最近では映画の出演も数多い。『キングダム/見えざる敵』でCIA長官を真面目に演じる一方、ファレリー兄弟のコメディ作品での起用も目立つ。それからコーエン兄弟からも深く愛されている。『ディボース・ショウ』『バーバー』それに最新作の『バーン・アフター・リーディング』でも存在感を見せ付ける。そもそもジェンキンスが『ファーゴ』でウィリアム・H・メイシーの演じた役柄のオーディションにやってきたことがきっかけで彼らの交流ははじまったとか。なるほど、人生たとえ失敗しても、あとあと色々と繋がっていくもんなのである。(ちなみに昨夏、全米で異例のヒットを飛ばしたウィル・ファレルとジョン・C・ライリー主演の爆笑コメディ"Stepbrothers"にも彼ら義理の兄弟の父親という役で出演していたが、この作品、日本ではあえなくDVDスルーとなってしまいました)

 そんな彼がはじめて主役に起用された。しかもその作品にて、初となるアカデミー賞にノミネートを果たした。もちろん主演男優賞に、である。

その記念碑的主演作が『The Visitor(原題)』だ。僕は昨年イギリスでたまたまこの映画が上映してある劇場へふらっと入り、いっぺんでこの人の放つあまりにもフツーな魅力の虜になってしまった(作品の詳細はこちら)。

 ご覧の通り、ジェンキンスに華はない。ほかのオスカー候補者と見比べたところで、現時点ではどう贔屓目に見ても「オスカーから最も遠い存在」であることはまず間違いないが、それでもきっと、受賞式当日は同じ俳優仲間たちから温かい拍手が沸き起こることだろう。

 しかし・・・しかし万が一ってこともありうる。

 第81回アカデミー賞授賞式は、現地時間2月22日の夜、日本では23日の朝からはじまる。きっとジェンキンスは「おれが本当にここにいていいんだろうか?」って表情をしているに違いない。そんな彼をとことん楽しもう。そしてたとえ受賞が叶わなくとも、全世界の視聴者が彼の名前と、"The Visitor"というタイトルさえ脳裏に刻み込んでくれるだけで、彼にとっては大躍進。映画と同様、喜びの太鼓をボンボコ叩きならしてくれることだろう。

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