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2009/02/07

『扉をたたく人 The Visitor』

 『扉をたたく人 The Visitor』はリチャード・ジェンキンスにとって初の主演映画である。長年に渡り名バイ・プレイヤーとして親しまれてきた彼は、本作ではじめて「自分がいなければ始まらない撮影現場」というものを体験したという。

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この映画でジェンキンスは最愛の妻を亡くしたばかりで傷心に暮れる大学教授ウォルターを演じる。まるで抜け殻のように無気力に過ごす毎日。講義にも身が入らず、生きる希望もない。ためしに妻の愛したピアノなど習ってみるが、まったく効果なし。

そんな彼が学会のため訪れたニューヨークで運命のいたずらにめぐりあう。かつて妻と過ごし、今も手つかずになっているアパートメントの扉を開けると、そこには異国からやってきたタレクら不法移民カップルが住みついていたのだ。彼らはどうやら不動産詐欺にあいこの物件を紹介されたらしい。

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妻が死んでからずっと他者を受け入れられない日々を送ってきたウォルターだが、なぜかこの思いがけない訪問者たちを見捨てることができなかった。「一泊だけなら・・・」と受け入れるウォルター。一泊が二泊になり、いつしかそれが「新居がみつかるまでの同居」となっていく。

彼らは次第に心を通わせ始める。これまで見せたこともない表情を浮かべるウォルターは、自らが訪問者になったかに見える。国境や文化を越えた未知なる暮らしがウォルターを違う世界の住人にさせた。彼はタレクにジャンベ(太鼓のような民族楽器)を習う。股で挟み込み、素手でリズミカルに、激しく打ち鳴らす。ピアノが奏でる画一的な音階からは生じ得なかった至上の陶酔感が、ウォルターの心を少しずつ軽くしていった。

しかしある日、警察による取り調べが状況を一変させる。ふとしたことをきっかけに不法移民であるタレクはウォルターの目の前で拘束され、数日間の拘留のあと本国シリアへ強制送還される憂き目となる。「彼は何も悪いことはしていないのに、どうして・・・」ウォルターは初めて他人のために必死になって奔走し、怒りをぶちまける。自分の金で弁護士を雇い、自分の足で幾度も面会に赴き、それでも9.11をきっかけに厳しくなった規則の前にに為す術もない・・・。


まさにリチャード・ジェンキンスが演じることを運命づけていたかのような的確なライティング。彼の内面からほとばしる真面目さ、ときに見せる冷たい威圧感、その反動で弱気になったときの小動物にも似た表情、人生の悲哀、おかしみ・・・を巧みに盛り込み、ジェンキンスの内面にあふれんばかりの人間臭さを見事なまでに抽出してみせる。

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そしてウォルターという人間の心の中に起こる変容は、時代が(アメリカが)忘却していた“寛容さ”をもう一度取り戻そうとする“兆し”でもあるかのようだ。

この映画のラスト、彼は地下鉄のホームで人の目も気にせずただひたすらジャンベを打ち鳴らす。そこには何の台詞もない。そのひたむきなまでの姿に、僕らは彼が自ずといざなわれ、そしてようやく辿り着いた心の場所をしみじみと味わうことになるだろう。

その姿に、長年、映画という巨大世界のまさに“小市民”役を地道に担ってきたリチャード・ジェンキンスの人生が重なるように思えるのは僕だけだろうか。

監督・脚本を手がけたトーマス・マッカーシーは『父親たちの星条旗』にも(物語の書き手として)出演している俳優でもあるが、『The Station Agent(日本未公開、未発売)』という作品で世界中で賞賛を浴び、この『扉をたたく人 The Visitor』でも、やはり多くの国々で公開され、国内外の幾多もの映画賞に輝いている。また、タレクの母親として登場するヒアム・アッバスはイスラエルの有名な女優。2月20日公開の『シリアの花嫁』でも主演女優として見事な演技を披露している。

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扉をたたく人 The Visitor
監督:トーマス・マッカーシー
出演:リチャード・ジェンキンス、ハーズ・スレイマン、ヒアム・アッバス
(2007年/アメリカ)ロングライド

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