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2009/03/10

『ワルキューレ』

『ユージュアル・サスペクツ』でその名を世界にとどろかせたブライアン・シンガー。後の『X-メン』シリーズや『スーパーマン リターンズ』では“人と違うこと”を切実な心の痛みとして綴り、ヒーロー・ムービーに新たな機軸を築き上げた。ユダヤ人であり、同性愛者であり、養子でもあり・・・シンガー監督の描く作品は彼自身の個人的な心象を少なからず投影したものであることが多い。

よって、彼がナチス・ドイツやホロコーストについて触れた『ゴールデン・ボーイ』、そして『X-メン』の冒頭シーンなどを参照にすると、『ワルキューレ』の世界観はもっと興味深く広がっていくことだろう。

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『ワルキューレ』の主人公は、ナチス・ドイツの暴走に異を唱えるあまり、無謀なアフリカ戦線に送り込まれてしまったシュタウフェンベルク大佐(トム・クルーズ)。母国の将来を憂えた彼は、勝ち目のない戦闘を回避しようと掛け合うが、時すでに遅し。上空から連合軍の戦闘機が容赦ない爆撃を加え、彼は多くの部下を失い、自身も重傷を負う。

病室のベッドで目覚めた彼は鏡の前に立つ。そこには左目の眼球を失い、左手さえも失った、変わり果てた自分が立ちつくしていた。

彼は静かな怒りに打ち震え、心を決する。

「ヒトラーを暗殺すべし」と。

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本作を論じるとき、「歴史的側面」という要素が不可欠となる。あの狂気に満ちた時代、自ら命を犠牲にしてまで歴史を変えようとした人間が存在した、という史実。

そしてもうひとつ忘れてはいけないのが、「ヒトラー暗殺」という最高級の素材をじっくり熟成させた「エンターテインメント」要素である。

もちろんユダヤ人としてのバックグラウンドがブライアン・シンガーをこの題材へと向かわせた、という捉え方もあるにしても、彼がこの『ワルキューレ』において『X-メン』『ゴールデン・ボーイ』で培った手法を果敢に取り入れていることに驚かされる。

まず僕らは、今まさにヒトラー総統がスクリーン上に登場しようかという緊張感を前に、次の瞬間、仮にヒトラーではなく『X-メン』のマグニートが現れたとしても普通に絵(映像)が成立してしまいそうな感覚に襲われるだろう。ブライアン・シンガーと撮影監督のニュートン・トーマス・シーゲルはこれまでにも幾度となく、何者か強烈な個性を放つ者が現れるときのビリビリとした緊張感を描いてきた。とりわけこのヒトラーの登場シーンには『X-メン』で培われた描写力、しかもマグニートの醸し出す威圧感みたいなものが多分に応用されているように感じるのだ。

加えて、『X-メン』で描かれた二極対立というスタイルも登場する。

ナチス中枢の扉を開くと、あのヒムラーやゲッペルスといった説明するまでもないお馴染みの面々が、特殊能力は使わないまでもそれなりの異様な存在感で異彩を放つ。

一方、トム君がその身を投じるレジスタンス組織も、ケネス・ブラナー、テレンス・スタンプ、ビル・ナイといった、説明するまでもない映画界の重鎮たちが敵の知名度に負けじとそれぞれの分野で個性を発揮する(米版ポスター・ビジュアルのように)。

この対立構造、まるで「マグニート軍VSプロフェッサーX軍」のようだ。

そして、メインとなるレジスタンス側の結束力を示すのが、他ならぬ“メンバーズ・カード”の存在だ。このアイテムが登場した瞬間、身体が仰け反ってしまうほどの興奮を覚えた。

組織の構成員たちは自分の身分を明かすべく、これの所持を義務づけられている。誰もがここぞというくだりでカードをしっかりとかざしあい、非常時にあっても、互いが仲間であるかどうか認識できるのだ。

メンバーズ・カード・・・僕らが普段より慣れ親しんでいる響き・・・。これに“ポイントカード”が続くと恐らく喜びは絶頂に達していただろうが、僕の無利益な期待に応えるほど、この映画、そして歴史は甘くはない。(もっとも最近のメンバーズ・カードはポイント機能を兼ね備えたものがほとんどではあるが)

そんな中、アイ・パッチを装着したトム君は不敵に笑う。『ミッション:インポッシブル』のイーサン・ハントにも増して大胆不敵だ。

不敵すぎるあまり、上官に「君!ちゃんと“ハイル・ヒトラー”って言いたまえ!」と叱責されたりもする。そんな時、彼はほんのちょっとだけ「そんなこと、死んでも言うか!」という反抗心を垣間見せ、それでも作戦のためならばと、すぐにカッ!カッ!とカカトを打ち鳴らし、威風堂々と咆哮する(まるで『ゴールデン・ボーイ』のイアン・マッケランだ)。

「ハイル・ヒトラー!!」

誰よりも高々と掲げられし左腕。しかしそこにあるべき“左手”は戦場で失われており、存在しない。彼はその傷跡を生々しくさらけ出す。

この瞬間、“何かを失うことで、人間を超越する”というヒーロー公式にトム・クルーズ演じるシュタウフェンベルク大佐が絶妙なほど当てはまった。

ヒーロー誕生である。

『X-メン』には登場しなかった新たなキャラクターが満を持して立ち現れたかのような“コンプリート感”に、またもやニヤッとしてしまう自分がいた。

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ワルキューレ
監督:ブライアン・シンガー
出演:トム・クルーズ、ケネス・ブラナー、ビル・ナイ
トム・ウィルキンソン、カリス・フォン・ハウテン、テレンス・スタンプ
(2008年/アメリカ=ドイツ)東宝東和



文献として読み込みたい方には「ワルキューレ ヒトラー暗殺の二日間」がお勧め。ちなみに手塚治虫の「アドルフに告ぐ」の中でもシュタウフェンベルクの反乱がほんのちょっとだけ登場します。

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