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2009/03/31

『チャーリー・バートレットの男子トイレ相談室』

Charliebartlett
学園モノ、天才高校生とくれば、真っ先に思い浮かぶのがウェス・アンダーソンの『天才マックスの世界』だろう。
日本では未公開の憂き目を辿りながらも後に圧倒的な数のファンを増殖させていったその作品と同様、『チャーリー・バートレットの男子トイレ相談室』は一部の観客にとって「運命的一作」となりうる、強力な磁力を秘めた異質コメディだ。

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「高校時代は人気がすべてさ」

それが天才高校生チャーリー・バートレットの辿り着いた答えだった。

これまで幾つもの名門私立校を退学となってきた。さぞや極ワルの不良青年なんだろうと思いきや、このチャーリー、何のことはない坊ちゃん育ちの超セレブな青年だ。

だが、実家には父親がいない。大きな屋敷には精神的に不安定なママと使用人たち。チャーリーはそんな母親の心の痛みを理解する優しい息子でもある。だが、時々ちょっとブッ飛んでしまう。今回も転校したばかりの私立校を放校処分に。その理由は「免許証を偽造した」から。友人たちのためにこしらえた精巧な免許証の数々が証拠として多数押収された。

彼の行き場は地元の公立校のみとなった。これまで通っていた私立校とは棲む世界が違うことは百も承知だ。考え得る限りの精一杯のカジュアル・ファッションに身を包み、チャーリーは初日を迎えるが、あれれ、上質のジャケットにセレブな笑顔・・・それは不良にぶん殴られるには打って付けの恰好だった。

でも彼は決してめげない。それどころか、ここが彼の生まれ持った才能なのか、瞬時に生徒たちの心の痛みを理解してしまうのだ。

彼はいつしか不良とも手を組み、薄汚い男子トイレを根城に商売をおっぱじめる。ずばり、お悩み相談室。はじめは何かの冗談かと半信半疑だった生徒たちも、気がつけば男子トイレの大行列に加わっていた。

的確なアドバイスと安定剤の転売(!)が話題を呼び、チャーリーはいつしか学校のカリスマ的地位にまでのぼりつめていくのだが・・・

その光景に警戒を強める校長先生の姿があった-。
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そもそも学園生活は社会の縮図だ。そこの住人(生徒)たちは誰もが心に痛みを抱えて生きている。大人たちが自分本位で、威圧的で、気分屋で、ふっとどこかへ消えていなくなってしまったりもするのに対して、子供たちは意外とシビアに現実を見つめて生きている。

中でも父親不在のチャーリー・バートレットは、子供ながらに「早く大人になってしまった」人間と言えるだろう。しかしその反面、純粋過ぎるほど幼い面も併せ持つ。第一、彼のやること成すことには責任が伴わない。だからこそ、ときに世界の法則をすべて掌握したかのようにゴーイング・マイ・ウェイな方法でぶっ飛んでしまう。(彼を演じるアントン・イェルチャンの機敏でダイナミックな身体の動きは、まさにハリウッド版の森山未來だ。『スタートレック』『ターミネーター4』と出演作が続くが、これからどんどん注目されていくであろう逸材であることは間違いない)

では本作は早熟したティーンの青春物語なのかっていうと、それもちょっと違う。なにせチャーリーと対比して描かれるもうひとりの主要人物として、ロバート・ダウニーJr.演じる校長先生がフィーチャーされているからだ。

彼こそはアダルト・チルドレンの典型のような人。妻に出て行かれるなど精神的な疲弊も大きく、拳銃自殺さえしようとした男だ。不安定になると、ついついアルコールをグビグビやってしまう。愛娘がチャーリーに惹かれていることも心配でしょうがない。そんな彼も昔は人気のある歴史教師だったという。しかし今では校長先生。生徒と教育委員会の板挟みになり、「責任」の二文字に押しつぶされそうになっている。

チャーリーと校長。彼らが運命的にぶつかり合うのは、遅れてやってきた反抗期のようなものかもしれない。これはアダルト・チルドレンとその子供らといったふたつの世代による闘争でもあるのだ。

だが一方で、彼らは互いが最もよき理解者になれるかもしれないことに気づいている。それぞれに背負いすぎてしまったものから身軽になり、高い場所からフラットなところへ飛び降りさえすれば、彼らはきっと父子のような関係性で分かり合えるに違いない・・・。
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ふと思い返すと、チャーリーがカリスマ化していく背景にもこの「フラット」な関係性が要因していた。「男子トイレ相談室」においてチャーリーと相談者はそれぞれ同じ高さの便器に腰を下ろす。これぞまさしくフラットな関係性の象徴。上から目線でもなければ、強制でもない。心情の吐露は排泄と似ている。人は誰もが男子トイレの便器の前で等しく平等なのである。

そんな聖域にてチャーリーの口から吐き出される親身なアドバイスの数々は、大人たちの愛に飢えた患者(生徒たち)にとって愛の告白に値するものだったかもしれない。だからこそチャーリーは生徒たちの中でカリスマ化していったのだ。

しかしここまで読めばすでにお察しのとおり、実はチャーリーこそが最も愛に飢え、同じ目線のアドバイスを欲している子供なのである。彼には師が必要だ。「責任」の意味を教えてくれる頼りがいのある大人の存在が。

そしてその役目を引き受けるのが、他でもない校長先生である。かつて度重なる薬物依存で世間を騒がせてきたロバート・ダウニーJr.が、いまやチャーリーにカリスマたる「責任」について諭すという、それはそれはスペシャルQなくだりこそ、本作における最もマジカルな瞬間である。

アダルト・チルドレンが精神的にちょっとだけ大人になり、対する早熟した子供たちがちょっとだけ成長の階段から降りたときに見える新しい風景。アダルトチルドレンとそのまたチルドレンらは、親子というよりはむしろ、親友のような関係を結べる特殊な可能性を秘めているのかもしれない。

そしていつしかふたりがいざなわれる場所は、やっぱりフラット。それも映画館を思わせるような劇場の座席にて、彼らは同じ高さの目線で隣り合って腰を下ろすのだった。つまり僕らが本作と遭遇する「劇場」にも、「トイレ」と同じとびきりの魔法が宿っているってこと。本作が初監督作となるジョン・ポールにはそれが充分過ぎるくらい分かっている。

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チャーリー・バートレットの男子トイレ相談室
監督:ジョン・ポール
出演:アントン・イェルチャン、ホープ・デイヴィス、カット・デニングス、ロバート・ダウニーJr.
(2008年/アメリカ)ゴールドラッシュ・ピクチャーズ=ワイズポリシー

サントラもすごくいいです!

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