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2009/03/17

『映画は映画だ』

韓国映画界の鬼才、キム・ギドクによる原案を、彼のもとで長らく助監督を務めた新人監督が脚色、映画化した『映画は映画だ』。

まるでゴダール作品のような意味深なタイトルを冠しながらも、その中身は明快そのもの。映画作りの現場で壮絶な火花を散らすふたりの男を描いた“激突エンタテインメント”に仕上がっている。

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映画俳優スタ(カン・ジファン)は、何かと感情的に行動してしまうタイプで、その性格が災いし最近トラブルが続いている。新作の撮影現場でも騒動勃発。ファイトシーンで挑発に乗り、相手を本気で殴打してしまったのだ。

業界内で危険人物のレッテルを貼られてしまったスタに事務所の社長も大あらわ。新たな相手役を引き受ける役者など誰もおらず、このままでは撮影続行もままならない。

崖っぷちに立たされたスタは、最後の頼みの綱としてひとりの男、それも役者ではない危険な男に目をつける・・・。

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映画好きのヤクザ、ガンペ(ソ・ジソブ)は、寡黙で危険な目線を漂わせながらも義を重んじるタイプで、収監中の会長からの信頼も厚い。いざとなれば盾にも鉄砲玉にもなる忠実な子分たちを引き連れながらも、実は誰にも言えない経歴を抱えている。

それは彼自身、かつて俳優志望だったという事実。いまでも映画に惹かれ、時間があれば劇場へ足を運ぶ彼だったが、ふとしたことがきっかけで、とある映画俳優と顔を合わせることとなる。

そしてある日、突然「敵役として映画出演しないか」とオファーが入り・・・。

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たとえば『ブロードウェイと銃弾』や『ゲット・ショーティ』など、ヤクザな男がプロフェッショナルの脚本家にも増して優れたストーリーテラーとして暗躍する展開は、ひとつのコメディの“型”として枚挙に暇がない。

『映画は映画だ』は、本業のヤクザが映画(フィクション)の中で役者に「ほんまもんのリアル」を教えてくれるという意味において、先の“型”と共通するものがある。

しかしここでギドク・マジックが大いに炸裂。さらに「ヤクザ自身も、かつては俳優にあこがれていた」という人物背景が追加され、両者の関係性はフラットになるのだ

ヤクザと俳優。互いに与えるモノがあれば、奪いあうモノだってある。ふたりの関係性はギドクの『悲夢』でもフィーチャーされた「陰と陽」のような次元にまで育まれていく。

二人は互いに影響し合って変わっていく。やがて俳優は映画の中でホンモノのヤクザ以上のヤクザっぽさを獲得するだろう。一方、本業のヤクザは俳優以上の名演を魅せるかもしれない。

撮影を終えると彼らはフィクションからそれぞれのリアルへと帰って行くが、しかし現場で負った傷跡はそう簡単に消えるもんじゃない。フィクションとリアル、ふたつの領域は別世界のようでいて実は繋がってもいる。ここにも陰と陽との関係は鮮明に現れているのだった。

才能の無い監督が手がけたならばいっぺんに崩壊しかねないこの危なげな世界観を、新人監督チャン・フン(弱冠33歳!)は絶妙な語り口で描き切る。なおかつキム・ギドク作品で見られる寓話的、あるいは形而上学的な質感がここではしっかりと地に足をつけ、リアリティに満ちたエンタテインメントとして見事に結実している。

とりわけ干潟でのクライマックス、カメラが延々と回り続ける中での「どろんこファイト」は壮絶を極める。カン・ジファンが「リハーサルが何の役にも立たなかった」と語るように、ふたりは泥に足を取られ、がむしゃらに殴り合い、等しく泥だらけとなって、最後にガッツポーズを決めてもそれが誰なのか分からない。監督自身「どっちが勝ったかなんてどうでもいいこと」と語るように、ふたりはこの瞬間に「どちらでもない」存在にまで昇華し、陰と陽はついに融合を遂げるのだ。

そして映画のクランクアップを境に、彼らは夢から覚めたように「フィクション」から解き放たれ、それぞれの「リアル」へと帰っていく。陰と陽はその役目を終え、またバラバラに分離していく。

これは「映画」という魔物がふたりに見させてくれた束の間の夢である。

たかが映画にどうしてそんなことが成し得るのか?そんな夢に何の意味があるのか?そもそも映画って、一体全体なんなのか?

そんな踏み込んだ質問に、僕らはただ渾身の力を込め、腹の底からこう叫ぶしか術がない。

『映画は映画だ』と。

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映画は映画だ
原作・製作:キム・ギドク
監督:チャン・フン
出演:カン・ジファン、ソ・ジソブ、ホン・スヒョン、コ・チャンソク
(2008年/韓国)ブロードメディア・スタジオ

「がんばれ!クムスン」からは想像も出来ないキャラクターを捻出したカン・ジファンと、物静かな中にとても熱い感情をみなぎらせるソ・ジソブ。ふたりは韓国映画評論家協会賞、青龍映画賞、大韓民国映画賞などでも受賞が続いています。

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