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2009/03/18

『フィッシュストーリー』

和製アルマゲドンか、ディープ・インパクトか。西暦2012年、ノストラダムスの予言が遅延してようやく到着。光に包まれた隕石がもう肉眼で確認できる位置まで迫りくる中、地球の生き残りを賭けた最後の希望となるシャトルが打ち上げられる!

といっても、これはハリウッド大作でもなければ、そんじょそこらのSF映画とも違う。そもそも宇宙空間でのミッションなんていっさい登場しない。でもそれなのに、この物語はどんなスペクタクルにも増して、純粋で、マジカルで、神々しいまでの瞬間で充ち満ちている。

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「僕の孤独が魚だったら・・・」

正直驚いている。この歌詞で始まるパンク・チューン「Fish Story」。この響きが鮮烈に突き刺さり、いまだに耳から離れないのだ。

そもそも“逆鱗”とかいうパンク・バンドが70年代に放った曲だという。セックスピストルズよりも前に、この日本で、あまりに早く音楽的才能を発露してしまった彼ら。それゆえ同時代の誰からも理解されなかった彼ら・・・

『フィッシュストーリー』はごく小さな個人のエピソードの積み重ねが、いつしか猛烈なカタルシスをもたらしてくれる、日本的に言えば、塵も積もれば山となる、石の上にも三年、わらしべ長者、伝言ゲーム、それら全部をひっくるめてパンキッシュに編纂しなおしたような作品だ。

それぞれのステージ<時代>に降臨した、ほんとうに取るに足らない人、人、人。彼らがいつしかパンクチューン「Fish Story」に導かれ、平凡な人生を精一杯に全うしていくなかでその奇跡は巻き起きるのだ。“想い”は少しずつ少しずつ醸成され、一人では成就せずとも、いつしか時空を越え未来に向けて凄まじいまでのトルネード・パンチを繰り出していく。

そこには「アートの宿命」ってやつが凝縮されている。原作者の伊坂幸太郎は、監督の中村義洋は、音楽プロデュースを手がけた斉藤和義は、そしてこの映画に関わったスタッフからキャストまですべての人々は、たった一本の音楽が世界を変える奇跡を、ほんらいは”大ボラ”であるはずのフィクションが世界を変える奇跡を本気で信じている。そんな“愛すべき大馬鹿者”(最上級の敬愛を込めて)たちだ。

でも、僕らだって例外ではない。いついかなるときに出走者となってこの運命のバトンを繋ぐかわからない。アンカーとして世界を救う可能性だってある。その「もしも」のときに向けて、いま人生を全力で走っているだろうか?倒れるときは前のめりでバトンを届けられるだろうか?

そんなことを考えると毛穴という毛穴から莫大なアドレナリンが湧き出してくるようで、なんだか身体の震えが止まらなくなる。

「僕の孤独が魚だったら・・・」

この曲の間奏には1分間の無音があるという。最初はまことしやかな都市伝説として語り継がれるこの部分。だが『フィッシュストーリー』と旅を続ける僕らは、それが各時代の登場人物に託されたインプロゼーション的空間であることに気づくはず。そのパートを奏でるのは彼ら自身なのだ。

そしていつの日か、僕らの耳元でも聞き覚えのあるパンクチューンが高鳴ったら要注意だ。たった1分。されど1分。あの無音状態が訪れるそのとき、僕らはこの壮大なキャンバスにいったいどんな人生を描けるだろうか?

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監督・中村義洋×原作・伊坂幸太郎による第一弾、『アヒルと鴨のコインロッカー』のレビューはこちら

フィッシュストーリー
監督:中村義洋
出演:伊藤淳史、高良健吾、多部未華子、
濱田岳、森山未來、大森南朋
(2009年/日本)ショウゲート

監督・中村義洋と主演・多部未華子の『ルート225』、隠れた名作です!機会があったら是非観てみてください。

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