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2009/04/25

『バーン・アフター・リーディング』

いまや世界的巨匠の仲間入りを果たしたジョエル&イーサン・コーエン兄弟が、オスカー受賞作『ノーカントリー』の衝撃を上回る、というよりは、完全に間逆の境地へと大跳躍を果たしてしまった最新作、もとい問題作が、この『バーン・アフター・リーディング』だ。

舞台はワシントンDC。ことの発端はひとりのCIA局員だった。任務中のアルコール飲食により過去に幾度も任務に支障をきたしてきた彼は、ある午後のミーティングでついに上司からクビを告げられる。逆切れしたのち「すべて洗いざらい世間にぶちまけてやる!」と局を飛び出した彼だったが、「元CIA局員」の肩書を生かして世界驚愕のメモワールを執筆しようと息巻くのだが・・・一方、ひょんなことから一枚のディスクを拾ったフィットネス・クラブのスタッフがひとり。

「うわっ、すっげえ、これって極秘ファイルじゃんか!」

彼は仕事仲間を巻き込んで、謎の男(ディスクの持ち主)へと取引を持ちかけるのだが・・・彼の無意味な勇気は、結果的に事態をより複雑かつバカバカしい方向へと導いていくのだった。

オープニング、上空からのスパイ衛星を駆使した俯瞰映像が臨場感を盛り上げる。畳みかけるような音楽。「読んだら、すぐに焼却せよ」という『ミッション:インポッシブル』さながらのタイトル。これらの要素を突きつけられると、『ノーカントリー』で得体のしれない恐怖へと突き落とされた僕らは、コーエン兄弟の次なる一手がどんな衝撃をもたらすものかと期待して身構えてしまうのだが、次の瞬間、思わせぶりな演出はすべてトラップだったと気づかされる。

なんなんだこの軽さ。思わせぶりな設定を解体し、どんどんくだらなさの境地へと突き進んでいくストーリー。しかもメインとなる6人は皆がオスカー受賞or候補の経験者という豪華さ…僕らはいったいぜんたい夢を見てるんだろうか。

特にプラピの役は衝撃的だ。『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』で劇場を静かな感動で包み込んだ彼が、まさか半年以内にこんなアホな役でカムバックしようとは。実は昨年のカンヌの記者会見でブラピもこの映画に衝撃を受けた旨をこう語っている。

「すべての登場人物は俳優への“あてがき”だと聞いてたんだが、僕の演じる筋肉バカの役ときたら…コーエン兄弟の目には僕があんな風に映ってたなんて、まったくショックだよ」

確かにその身のこなしといい、喋り方といい、アホだ。これまでのキャリアを台無しにしてしまいかねないほどアホなのだ。

しかし僕らは『ノーカントリー』で新たな節目に立ったコーエン兄弟がこのような(ある意味)衝撃的な一手に打って出た意味を改めて考える必要があるだろう。たとえば、住人の多くが何らかの政府要人というこのワシントンDCで、たった一枚のディスクをめぐって無能な人たちによるアホな事態が巻き起こる…それだけでも彼らの皮肉めいた目配せが見えてきそうだ。

さらには、実際はディスクの中身が理解されないまま、人々がひたすら盲目的に「重要機密!」と盛り上げていく“お祭り現象”の背後には、この国の首脳が今世紀に犯した取り返しのつかない致命的なミスを、コーエン兄弟なりのやり方で記号化して作品に封じ込めようとしたのだと解釈できないこともない。エンディングにThe Fugsの"CIA Man"(なんちゅうけだるい曲なんだ)を起用したのも意図的だろう。

そしてコーエン兄弟は本作で、物語上いちばん重要ともいえる各エピソードの結節点をあえて省略して言葉の説明にゆだねるという、かなり確信犯的な「語りのタブー」にも挑んでいる。本編上のディスクのことなど本当はどうでもいい。はっきりいってフェイクだ。僕らは実際にはこっち側でかなりスペシャルな語りの実験ショーが開催されていることにもっと瞠目すべきなのかもしれない。

というわけで、個人的にはこの作品を「重要」と踏んでいるのだが、おもしろさの周波数が違う人には「なんだこりゃ」と受け取られてしまっても仕方がない。それが重要か否かなんて人によりけりなのだ。結局は個人の思い入れひとつで宝石にだってゴミにだってなる。そう、あの「ディスク」と同じように…

てな感じで、このレビューも焼却(ジュッ)。

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バーン・アフター・リーディング
監督・脚本・製作:ジョエル&イーサン・コーエン
出演:ジョージ・クルーニー、フランシス・マクドーマンド、ジョン・マルコヴィッチ、
ティルダ・スウィントン、リチャード・ジェンキンス、ブラッド・ピット
(2008年/アメリカ)ギャガ・コミュニケーションズ=日活

エンディングで流れるThe Fugsの"CIA Man"は感染必至。映画を観てかなりの月日が経っているにも関わらず、いまだに一日一度は脳内にあふれ出すキラーチューンと化してます。CIAメ~ン♪

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