« 『チェイサー』 | トップページ | 『スター・トレック』 »

2009/05/01

『GOEMON』

 宇多田ヒカルのPVや『CASSHERN』でおなじみの紀里谷和明が、またもやコンピューター・グラフィック技術をフル稼働させたアクション・エンタテインメントで大勝負を挑む。しかも今度は時代劇ときたもんだ。

 物語の中核を担うのは天下の大泥棒・石川五右衛門。江口洋介があの兄やん風情で破天荒に演じるこの男、夜の闇にまぎれて忍者のごとき身のこなしで街中を飛び回り、富める者の屋敷から金銀財宝をごっそり頂戴しては、貧しき町民たちへ根こそぎバラまき「絶景!絶景!」と高笑い。お役人が血眼になってその行方を追う一方で、民衆の間ではまさにヒーローの名にふさわしき人気を獲得している。

 だが無鉄砲なカブキ者、五右衛門にも胸に秘めた過去があった。かつて親を亡くし彷徨い歩いていた、幼い頃の自分。山賊の襲撃から彼を救い出し庇護下に置いてくれたのは、かの織田信長だった。彼は言う。「失いたくなければ、強くなれ」。その言葉を守り抜くかのように五右衛門は同年代の才蔵とともに服部半蔵による厳しい修行に耐え抜き、信長が信頼を寄せる立派な忍(しのび)として成長していく。

 しかし天正10年、本能寺の変が勃発。主君の突然の死に呆然と立ち尽くした五右衛門は、互いに切磋琢磨してきた才蔵に別れを告げ、己の道を歩むことを決心するのだった。

 そんなこんなで時代は移り変わり、いまや秀吉の世。猿飛佐助を部下に従えてアウトローなスティール(盗み)・アンド・リリース(放出)を繰り返す五右衛門の前に、ふたたび(雲隠)才蔵が立ち現れる。石田三成に仕える身となった彼は、いまや五右衛門にとって手の内を全て知り尽くした最強の敵だ。彼が追い求めるのはただひとつ、五右衛門が屋敷から盗みだした「秘密の地図」。それには信長暗殺を企てた真の謀反人を示す重要な文書のありかが記されていた…。

 前作では賛否両論渦巻いた紀里谷流の絵作りだが、今回も特殊技術に画竜点睛をゆだねた斬新なイマジネーションが炸裂している。実写が先か、技術が先か。その究極の二者択一は紀里谷作品を読み解く上で非常に好みの別れる分岐点となりそうだ。

 確かにときどきゲーム画面のようにチャカチャカと展開したりもする。作り物の草原が風になびく様子を目にしても、大した感慨など起こるはずもない。それでも一方で、この人、『CASSHERN』に比べてストーリーテラーとしてずいぶん大人になったなあという印象も強く受ける。

 紀里谷の中にいくつかの革命が見える。まず、ひとりの頭の中で立ち上げられた世界観を他の才能と共有することによって、これまでになかった魅力が立ち上がっている。そして、胸のうちにわだかまった想いをセリフなどで直接・表面的に訴えるのではなく、より重層的に沁みこませることによって、単なる時代劇ではなくそれを超越した普遍性へと到達することを可能としている。

 何より顕著に思えたのが、江口洋介、大沢たかお等、紀里谷とおなじ四十路Guysのコンビネーションがほどよく機能している点だろう。なんというか、CGに迫力負けしない、人間の魅力が前面に沁みだしているのだ。この世代が日本映画でとんでもないことを巻き起こしてやろうという意気込みが十分過ぎるほど伝わってくる。

 そして石川五右衛門を語る上で「釜茹で」シーンは欠かせない。このハイライトというべき場面にて、紀里谷は非常に面白い舞台装置を出現させている。

 処刑台は舞台空間と化し、その上では釜がグツグツと地獄の音を奏でている。周囲にはおびただしい数のオーディエンス(町人)。いまや男が生命を絶たれようとしている。そんな彼が死の前に発した、たった一言の告白。それが放たれた瞬間、すべての真実と虚構は反転する。町人たちはその虚構に大きく心を揺さぶられ、目を見開き、一気に感情を沸点へと到達させるのだ。

 なんてことないありふれたシーンかもしれない。けれど僕にはこの「虚構に感情を揺さぶられる民衆」に「映画」とよく似た構造を見出さずにはいられなかった。まるで映画の中に映画が再現されたかのようなメタ・シネマ感覚。本人が意図的か否かはわからないが、こういう映画作りの過程で作り手の深層心理から染み出してきたような不確実性に魅了されてしまう自分がいた。

 またこれは「すべては虚構である」という作者自身の告白でもあったのではないか。たしかに本作は手の込んだCGカットがスクリーンを席巻している。しかし紀里谷はそれがすべてではないと知っいるどころか、いざとなればそれを全て「虚構」として捨て去る覚悟だって持ち合わせている。かのシークエンスはそんな宣言にすら思えたのだった。

 でもやっぱり観る人によっては「こんなの映画じゃないよ!」とか酷評されたりもするんだろう。紀里谷和明にはその批判も甘んじて受けとめて、これからも映画を作り続けてほしい。きっと伝わる人には伝わるはずだから。

↓この記事が参考になったらクリックをお願いします。

GOEMON
監督:紀里谷和明
出演:江口洋介、大沢たかお、広末涼子、ゴリ、
要潤、中村橋之助、寺島進、奥田瑛二
(2009年/日本/128分)ワーナー ブラザーズ映画

------

TOP】【過去レビュー】【DIARY

|

« 『チェイサー』 | トップページ | 『スター・トレック』 »

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/137483/44854913

この記事へのトラックバック一覧です: 『GOEMON』:

« 『チェイサー』 | トップページ | 『スター・トレック』 »