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2009/05/27

タイム・オブ・ザ・ウルフ

SFとはいっても、もちろんハネケのことなので一筋縄ではいかない。舞台は大災害が起こったあとのヨーロッパ。水と食糧の不足は日に日に深刻の度合いを増している。一家は安全を求めて別荘へと避難するが、そこには見ず知らずの別の人間が住みついていた・・・。

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冒頭からすでに衝撃的だ。一家の大黒柱たる父親があっけなく射殺される。このシーンの恐ろしさと言ったら!決定的な瞬間(着弾、流血)はいっさい描かれないのは『ファニーゲーム』と同じ。でもだからこそ、怖い。その後、我が家と父を失った家族は、生き延びるためにとめどなく放浪を続ける。その意味で本作はロードムービーでもある。

静謐な映像には美しさを通り越した薄気味悪さがつきまとう。避難民となった人間たちのやりとりには、今にも発火を引き起こしかねない軋轢が潜んでおり、刃物や銃器にも増して人間の深層心理を鋭くえぐりとる観察眼は今回も容赦なく効力を発揮する。

ここで奇妙なことに気づいた。本来、映画とは、作り手の意図を観客に理解して貰えるように作品内に何らかの手がかりを埋め込むものである。しかしハネケは、その問題意識や思考の痕跡を綺麗に画面から拭い去っているのだ。その手際の良さと言ったらほとんど完全犯罪に近い。

この黙示録的状況の意味は?彼ら家族の運命は?あの少年は何をしようとしたのか?頭の中が疑問符で膨れあがる。

すがるような想いで再生したDVDの特典インタビューにも一発かまされた。彼は「私がここで何かを語ってしまえば、映画を作った意味がなくなってしまう」と飄々と語り、すべての解釈を観客へと委ねてしまうのである。ここで我々はハネケを攻略する上での最重要事項を知る。つまり、ハネケ作品に「答え」を求めてはならない。ハネケ作品において「答え」は重要ではないのである。

家族の放浪に付き合う僕らにとっては非常にしんどい旅路であるが、エンタテインメントから遠く離れたところにある「発見」も多く、些細な描写にも心が掻き乱され、同時に子供の見せる懸命な表情にどうしようもなく心に震えたりもする。ハネケ先生、あのとき、あの子はたったひとりで世界を変えようとしていたのではないでしょうか・・・?

もちろんハネケは答えない。日本において未公開だったのも頷ける難易度ながら、他の作品と同様、ハネケの世界観にいろんな意味で打ちひしがれ、鑑賞後には「ふぅ・・・」と深い溜息を発してしまった。それは落胆でも満足でもなく、今この瞬間から僕の脳内で『タイム・オブ・ザ・ウルフ』が延々と続いていくであろうことへの、ある種の“覚悟”というべき溜息なのだった。

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