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2009/06/05

『ターミネーター4』

 80年代、殺人サイボーグに襲われるしがないウェイトレスのもとに謎の男が飛び込んできて、「あんたを守る!なぜなら救世主の母なのだから!」と告げた。それは以後のエンターテインメント文法を激変させたSF映画の金字塔である前に、格差社会に生きるひとりの女性が掴みえた究極の人生大逆転絵図だったと僕は思う。

 それが女性の社会進出めざましかった当時の潮流と呼応するものであったことは明らかだが、その一方で『ターミネーター』シリーズは、聖書におけるヨセフ(もっとも本シリーズは処女懐妊ではなく、しっかりとセックスシーンが描かれるが)以上に「父性」というものを邪険に扱ってきたことも事実だ。

 そして我々は『ターミネーター4』を迎える。『ターミネーター3』のクライマックスでジョン(・コナー)とケイトをアダム&イヴ化させた“審判の日”以後の未来をはじめて描いた作品となる。「来るべき時」を描かずに観客の想像力に任せることはこのシリーズのひとつの美学であったはずだが・・・と不平を言い出せばキリがないが、それでも『ターミネーター4』はなんとか作り手がプレッシャーを克服し、見応えのある作品に仕上がっていた。

 人気シリーズは、何よりもまず「特殊技術の見本市」としての性格を帯びる(その意味で1984年は特殊技術といえばCGではなく特殊メイクが主流だったことに改めて驚かされる)。シリーズ誕生から25年。人類はいよいよ2018年の未来世界を実写化するイマジネーションと手段(技術)を得た。それはもうとてつもない映像のオンパレード。『トランスフォーマー』に喧嘩を売ったような巨大ロボットが登場したかと思えば、ヘリが墜落するワンシーンにしても視点が機内を出たり入ったりと、もはやカメラ、自由自在。非常にマックG(『チャーリーズ・エンジェル』)らしいこだわりの映像が詰め込まれている。

 これまでの3作と違い“タイムワープ”が登場しないなど、本作はシリーズ物としてかなりのフリースタイルに突入してはいるものの(どこか海外のメディアが「不思議の国のアリスみたいだ」と評していたが)、「“謎の男”がターゲットの生命を死守する」といった基本ラインはまだかろうじて踏襲している。

 シュワルツェネッガーと比べるとあまりに華のないこの“謎の男”の名はマーカス・ライト。過去から届いたタイムカプセルのごとく、ふと目覚めると、そこは荒涼たる2018年の未来世界だった。何がどうなっているのかも分からず放浪を続けるマーカスは、廃墟と化したロスの街中でカイル・リースという青年と遭遇する。

 ふたりは友情にも親子にも似た不思議な絆を結び、マーカスの強靱な身体性は幾度となくカイルを救う。やがてふたりはラジオ放送で聞きつけた反乱軍の中心人物ジョン・コナーの主戦部隊と合流すべく秘密基地をめざずが、ちょうどその頃、コナー自身も母の残したカセットテープを手がかりに自分の父親となる青年の消息を探していた。その名とは、カイル・リース・・・。

 かくも本作は「父性」にはじめて切り込んだ内容に仕上がった。金融危機に端を発し、世界中の家族において父権が揺らぐこのご時世において、である。原題にある"salvation"とはつまり、『ターミネーター』シリーズの死角ともいうべき“父性の救済”でもあったのではないか。

 ジョン・コナーからカイル・リースにあのアイテムが手渡されるとき、観客は彼が成しえなかった「父親越え」という儀式をここにようやく達成できたことを知るだろう。つくづく本作は『ターミネーター』(84年)のリバーシブルような作品だ。

 そしてジョン・コナーによるミッションの果てに、本作には特殊技術の恩恵を受けたもうひとつの奇跡、「シュワルツェネッガーの復活」を体感するわけだが・・・これはまあ、奇跡というよりある種のファン・サービスとも言えるので、その是非については口を閉ざすことにしておこう。

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ターミネーター4
監督:マックG
出演:クリスチャン・ベイル、サム・ワーシントン、アントン・イェルチン
ムーン・ブラッドグッド、ブライス・ダラス・ハワード、ヘレナ・ボナム・カーター
(2009年/アメリカ)ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

そういえば、『ターミネーター3』に出演していたニック・スタールってどこへ行ったんでしょう・・・?

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