« 全米ボックスオフィスJul.31-Aug.02 | トップページ | 世界で最も過酷な映画祭 »

2009/08/04

『コネクテッド』

ハリウッド映画『セルラー』の香港リメイクと聞くと、それはパワーダウンという意味なのか、と問いただしたくもなるだろう…この『コネクテッド』を観るまでは。心配は無用。あらかじめ言っておく。『コネクテッド』はその源泉を『セルラー』に求めながらも、語られる文法はオリジナルの数段上を行く存在だ。

Connected_4   

夫を亡くし、女手一つで娘を育ててきたロボット・エンジニアのグレイス。娘を小学校へ送り届け、勤務先へ向かう。それは何気ない日常の始まりだった。走行中の彼女の車体めがけて真っ黒いバンが体当たりしてくるまでは。

武装集団に身柄を拘束された彼女はその首領らしき人物から「弟の居場所を言え」と脅される。さもなくば娘の命はない、と。

ここがどこかも、なぜ自分が囚われているのかも分からない。ただ、監禁場所の小屋には叩き壊された電話がひとつ。彼女はエンジニアのスキルを総動員させて線を繋ぐ。ダイヤルは壊れて使えない。しかしアトランダムに番号を連ね、彼女はなんとか発信に成功。そして奇跡的にコネクトした回線、それは幼い息子を持つシングルファーザーであり気弱な経理士アボンの携帯電話だった・・・。

本作において「壊れた電話」とは、莫大な可能性の中から任意の二人を抽出しコネクトする、いわば抽選会のガラガラポンの役割を担う。これは「見知らぬふたりが、偶然に出会い…」というありふれたストーリーラインと根本的には何も変わらない。にも関わらず、本作がきわめて斬新に見えるのは、主人公のふたりが冒頭からクライマックスまで互いの顔を全く知らないパラレルな状況のまま、それぞれの地平線を全力疾走させられる点にある。

どちらかというとシンプルな構造で織りなされた『セルラー』に比べ、香港版は自らの細胞内に組み込まれた香港映画DNAをみなぎらせ、大胆な肉付け、ドラマティックな演出が図られる。それこそジャッキー・チェンの『Who am I?』『プロジェクトBB』を手がけたベニー・チャン監督らしく、中盤で見せるカーチェイスは鬼気迫るものがある。お決まりのカークラッシュだけでは飽き足らず、大回転、破壊、崩壊と、およそ携帯一本で巻き起こるにしてはあまりに「やり過ぎ」な状況描写が真夏の打ち上げ花火のごとく展開する。

しかしここで「無駄なアクションだなあ」という溜息は不思議と生じない。むしろ観客としては一連の現実離れした暴走アクションを主人公の心理メタファーとして完全に受け入れてしまえる。つまり、この映画の主人公たるシングル・マザー&シングル・ファザーらが自分の生命よりも大切な存在を守るためにそれぞれに限界を超えていく姿を、崩壊していく街の様子を借りて見事に代弁してくれる。あるいはアボンが車で駆け巡る道路そのものが回線でもあるというべきか。

とにもかくにも彼らは子供のためならば街を一個たやすく消滅させてしまえる。そんなギリギリの大人たちなのだ。

そこに絡んでくるもうひとつの落ちぶれた警官エピソードも、普通に考えると非常に蛇足的ではあるが、ジョニー・トー作品の常連ニック・チョンが好演していることもあり見事に映画の魅力を倍増させてくれる。「3つめのパラレル」が絶妙なコメディリリーフとなり、映画のハーモニーを変奏していくのである。

また『コネクテッド』の背後には香港ネイティブと、大陸出身者との微妙な関係性まで描かれている気がする。それは主に方言の面で作品の引き金となっていくのだが、僕が注目したいのはこの映画の“悪”をひとりで引き受けたリウ・イエの存在だ。『山の郵便配達』の純朴な若者が、西部警察も真っ青なサングラス&全身黒づくめ、さらには頭髪を銀色に着色し、まさに凄味十分!血も涙もない悪漢を熱演している…と書けばちょうどいいのだろうが、これが熱演しすぎ、トゥー・マッチ。まるで彼だけがどこか別の惑星からやってきたかのように演技の質が違うのだ。

これはともすると、大陸出身者がテレビや映画に影響されて信じ込んでしまった「あまりにわかりやすい悪のイメージ」なのかもしれない。大陸出身者を軽く皮肉ったジョーク、と言うべきか。

そしてこの悪役ぶりが漫画のように非現実的であるからこらこそ、主人公のパラレルな男女は、背後から必要以上に激しく追い立てられ、愛する子供めがけて懸命に走っていけるのである。リウ・イエの「絵にかいたような悪漢ぶり」もまた、物語上の心理メタファーとして機能しうるわけだ。

まとめよう。『コネクテッド』は一見『セルラー』よりも話が込み入って装飾が過ぎるように思われながらも、実はあらゆる細部が折りたたみ可能で、すべてを「子供とシングル・ペアレントの物語」として集約しうる。ある意味、最新機能付きの携帯電話みたいな、実にすぐれた作品なのである。

↓この記事が参考になったらクリックをお願いします。

コネクテッド
監督:ベニ-・チャン
出演:ルイス・クー、バービー・スー、ニック・チョン、リウ・イエ
(2008年/香港=中国)ブロードメディア・スタジオ、ハピネット

------

TOP】【過去レビュー】【TWITTER

|

« 全米ボックスオフィスJul.31-Aug.02 | トップページ | 世界で最も過酷な映画祭 »

【新感覚アクション】」カテゴリの記事

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/137483/45831954

この記事へのトラックバック一覧です: 『コネクテッド』:

« 全米ボックスオフィスJul.31-Aug.02 | トップページ | 世界で最も過酷な映画祭 »