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2009/09/26

ココ・アヴァン・シャネル

ココ・シャネルに関する映画が3本公開される。
『ココ・アヴァン・シャネル』はその中でも、いわゆる「エピソード1」にあたる位置づけ。最盛期の前日譚とはそこで描かれる人物が有名であればあるほど、人生の中で最も伏線のつまった旨味部分といえよう。

ココ・シャネルの幼少期はあまり幸福とは言えなかった。物語は孤児院へと向かう馬車の中で幕を開ける。その瞳は孤独で哀しげな輝きで満ちている。しかし車窓から放たれたその眼差しは、のちに彼女が自由にその才能を羽ばたかせることになる外の世界とのファースト・コンタクトでもあった。

モノトーンにも似た少女時代が過ぎていく。“ココ”という愛称でキャバレーの歌い手となった。特技を生かして小さな仕立て屋を経営した。愛人として中年の大金持ち将校の屋敷に転がり込んだ。はたまたイギリス人実業家との真実の愛を経験した。

勝気で怖いもの知らずな反面、カメラは時に彼女の孤独で哀しげな視線を称える。時代と文化、とりわけ当時の女性たちが置かれた文化的束縛をニュートラルに見つめる観察眼は、やがて多くの女性たちを精神的に解放する斬新なモードの創出へとつながっていく。それはずっと愛に飢え続けてきた彼女が「時代の寵児」として世界に愛された瞬間でもあった。

加えて本作は、ココ・シャネルの初期の「人生」と彼女が築き上げた「業績」とを巧妙に結び付けて提示する。その総決算を担うラストのファッションショーは、見せ場としてはささやかではありながら、花道を通過していく服飾の数々が本作で語られし様々なエピソードを呼び起こし、僕らは概して「モード」と呼ばれるものがデザイナーの人生を如実に記憶・保存した器でさえあることを、あらためて知らされるのである。

よって、人生で一度たりともシャネルの店に足を踏み入れたこともない人も大丈夫。これはひとりの人間がようやくスタートラインに立つまでの「エピソード1」として、あらゆる観客にとって嫌味なく、容易にアクセスを可能とする物語なのだ。

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