« THIS IS IT | トップページ | 母なる証明 »

2009/10/31

パイレーツ・ロック

史上もっともロックした男たちは誰かと問われれば、僕は迷わずにこう答える。「タイタニックの船上で、最後まで演奏を続けた楽団だった」と。結局、人生なんて、沈みかかった船でどれだけプロフェッショナルに相手と繋がっていられるかに尽きるのではないか。その意味では誰もがロックする権利を持っている。で、この映画の原題は?

Boatthatrocked_3 

舞台は1960年代の英国。レコード産業との取り決めによりBBC放送でポピュラー音楽が流れる時間がきっちり制限されていた時代、そうはいかん!音楽はみんなのもの!とばかりに沖合で幾つもの海賊放送が産声を上げた。なぜ沖合かって?それは国土の規制が適応されない聖域だから。彼らは年中プカプカと海の上で暮らし、相当クセのあるクルーがそれぞれ持ち回りでDJを担当。次第にメインストリームとは一線を画した音楽ファンたちの間で熱狂的な支持を取り付けていく。

『パイレーツ・ロック』では数あるパイレーツ・ラジオの中からひとつをピックアップ。『ノッティング・ヒルの恋人』『ブリジット・ジョーンズの日記』の脚本で知られ『ラブ・アクチュアリー』で監督デビューを果たしたリチャード・カーティスが、自身のティーンエージャー時代の記憶を手繰り寄せるかのように想いの丈を、彼流のブリット・ムービーへ昇華させている。

ちなみにカーティスはオックスフォード時代にローワン・アトキンソンと出会い、後の"BLACKADDER"シリーズ、そしておなじみ『MR.ビーン』などでコラボレーションを展開してきたことでも有名だ。つまり彼ほど英国のサニーサイドを極上のコメディへと仕立てあげていく術に長けた人はいないのである。

Richardcurtis BBC番組で映画について語るリチャード・カーティス監督

本作の登場シーンは大半が船の上。にも関わらず、カーティスは『パイレーツ・ロック』で英国の心を謳う。法律が明文化されていないことでも有名なこの国では多くの取り決めがその時代に生きる政治家の裁量に任されている。その流れを笠に着て「けしからん!」と海賊放送局を取り締まろうとする政治家(こういう役をやらせたらケネス・ブラナーの右に出る者はいない)とその忠実な部下たち。またこういう権力体制に対して市民が闘いを挑み、そして勝利を納めてきた記憶も英国民にとって誇り高いものであるはずだ。

Theboat_2
これは音楽と文化についての最も平和で、ユル~い闘争の物語である。誰一人として死ななければ、負傷者も出ない(その代わり、心にひどい傷を負う者はいるが)。海賊放送局の歴史は現代においてもYOUTUBEやその他の海賊版の頒布など(最近では欧州に“パイレーツ党”なる自由にダウンロードする権利を主張する政党まである)様々なかたちで受け継がれているが、これらは過去にも現在にもさまざまな権利上の問題を残したにせよ、彼らは文字通り沈みかかった船の上で最後の瞬間まで果敢にロックしつづけるのであり、その自由のモニュメントが崩壊したそのとき、今度は民衆の側が手を差し伸べ、彼らの“ロック”は大衆社会の遺伝子となって息づいていく。これらのエピソードはすべてフィクションだが、おわかりのとおり、文化と大衆の関係性として実に象徴的なシークエンスとなりえている。

はたしてYOUTUBE世代の僕らは、映画の中に登場する「音楽を愛してやまない人たち」ほど強く音楽を愛し、沈みゆく船の上でその想いの丈を叫び続けることができるだろうか。それが出来るのであればこの情報革命は本物だと思う。

これはもう40年以上も昔の話。

僕らとおなじ、音楽を愛してやまなかったひとたちの、
愉快で大胆不敵な闘争劇、のような、話なのである。

↓この記事が参考になったらクリックをお願いします。

TOP】【レビュー】【TWITTER

|

« THIS IS IT | トップページ | 母なる証明 »

【地域:英国発】」カテゴリの記事

【音楽×映画】」カテゴリの記事

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/137483/46630846

この記事へのトラックバック一覧です: パイレーツ・ロック:

« THIS IS IT | トップページ | 母なる証明 »