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2009/10/06

『私の中のあなた』

幼くして難病を宣告された娘のため、両親は遺伝子治療によって彼女と適合性の高い次女を儲ける。生まれた瞬間から姉の命綱となってきた妹。一家は幸福に暮らしてきたはずだった。やがて妹が自分の生きる権利を主張するまでは…。

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いかにも社会派な内容に聞こえるが、『きみに読む物語』のカサヴェテス監督は瑞々しいまでの触感でもって本作を「生命の物語」に仕立ててみせる。そこには悪者など存在しない。誰もが懸命に生き、誰かのために尽くしたいと願っている。キャメロン初の母親役も上出来で、娘たちとのコンビネーションも自然体。そして何よりアビちゃんの柔軟かつ透明な存在感が周囲のキャラクターを引き立て、テーマをより多元的なものへと導いている。

加えてニック・カサテヴェスの手法として注目したいのは、登場人物の意識の流れに沿って自由自在に展開していくパッチワーク的な語り口だ。

この映画ではいくつものフラッシュバックによって家族の歴史が語られるが、各キャラクターはまったく脈絡のない出来事によって突発的にその記憶を引き出していく。

たとえば、誰かの話を聞きながらふと「特別な一日」の記憶が蘇ってくる。「海へ行こう!」と娘を担ぎ、病室から飛び出した父のこと。誰もが笑顔だったこと。最初はパニクってた母も、しまいにはあきらめ、笑っていたこと・・・。観客としては「え、なんで今、こんな思い出が?」と驚きながらも、あらためて自分自身の意識の流れと照らし合わせてみると明らかな整合性が見えてくる。

だって、僕らにとって脈絡もなく別の記憶が導き出されることは日常茶飯事だから。人間の意識とは本来、物語的な重力に抑圧されることなく、いたって自由に飛翔を続けるものなのだ。

その流れが共有できるからこそ、いまこの場所でまったく違う記憶が引き出されていく意識のリアリティにどうしようもなく心が揺さぶられてしまう。これまであまりお目にかかれなかった、物語と意識との新たな共存関係が本作には数多く刻まれている。

そして本作はアビゲイル・ブレスリン(リトル・ミス・サンシャイン)の目線によって幕を開け、ラストもまたその目線によって幕を閉じるこの物語は、彼女の「意識の瞬き」によって生まれた自由な飛翔ととらえることもできる。それらはこれからも幾度となく、彼女の大切な記憶として、からだの中のスクリーンに映し出されていくことだろう。

そうやって人は誰かのからだの一部になりたいと願ってきた。

言うまでもなく映画も、その手段のひとつである。

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