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2009/10/08

『クヒオ大佐』

300文字レビュー」とは、映画への想いをたった300文字に凝縮させる、お手軽な文系スポーツ。今回のお題は『クヒオ大佐』(10月10日ロードショー)です。

旬な俳優が結婚詐欺師を演じるとは、いかにも調子に乗っている感じがする。おそらく堺雅人もそのように考えたはず。で、導き出された彼の役作りは、こちらの想像を覆すものだった。時は湾岸戦争が始まった頃、真白な軍服に身を包み、チョビ髭つきの爽やかな笑顔でどこからともなく現れた日系アメリカ人将校クヒオ大佐。女性たちは彼の片言かつエレガントな魅力にことごとく騙されていく、はずだったが…。コミカルな幕開けとは裏腹に、堺の立ちふるまいには常に不可思議なニュアンスが滲む。それは可笑しくもあり、哀しくもあり、時代が直面した闇でもあるかのよう。彼の“笑顔”の真意が明かされる時、どこか厳粛な気持ちに陥ってしまったのは僕だけだろうか。

*****
ちなみに…

本作は実際に起こった結婚詐欺事件を大胆に脚色した原作小説をもとにしている。実在したクヒオ大佐自身は、いまどこで何をしているのか露ほども分からないが(まさか客席に座ってこの映画を観ているなんてことは…なきにしもあらずか!)、同じく被害に合った女性も実在するのだから「おもしろかった!」と軽々しく口にするのは憚られて然るべきなのかもしれない。

だが、これはエンターテインメントでもある。

それを踏まえた上で、本作はほんの束の間ではあるが、詐欺事件の善悪二元論を越える。クヒオ大佐が口にする“嘘”にカメラが肯定的に寄り添う瞬間が用意されているのだ。それは「なぜ彼は嘘をつくのか?」という根本的な疑問への答えらしきものを示唆してくれる。

人間は創造力を駆使して精一杯の嘘をつく。
他人に対して、そして自分に対しても。
現実に対するささやかな抵抗のために。

良くも悪くもクヒオはイマジネーションの使い手である。その意味でこの映画の作り手たちと立場は同じ。彼らはクヒオの犯行を面白哀しく物語る一方で、彼の創造性の爆発を全身全霊でもって祝福しているかに見える。

かつてティム・バートンは『ビッグ・フィッシュ』で人間の他愛もない“嘘”を祝福してみせたが、これがサニーサイド版だとすると、『クヒオ大佐』はちょっぴりダークサイド版、といえるのかもしれない。

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