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2009/11/17

かいじゅうたちのいるところ

あのスパイク・ジョーンズの最新作が登場

Where_the_wild_3
 

こと映画の領域では脚本家チャーリー・カウフマンとタッグで論じられることの多かったスパイク・ジョーンズ。

けれど彼の本領とは、もともと幾層にも折り重なった世界を複雑怪奇に読み解く以前に、その映像不可能な世界観を説明的でなくあくまで感覚的に具現化してみせる手腕にこそあったはずだ。

そんなジョーンズがモーリス・センダックの絵本を映画化する。これまで幾人ものフィルムメーカーが挫折してきたこのプロジェクトにチャーリー・カウフマンの姿はなく、代わりにトム・ハンクスらがプロデューサーとしてジョーンズのビジョンを支えている。たった40ページ(そのうち半分は真っ白の背景に1、2行たらずの本文が記されている)にしか過ぎない原作絵本は、彼のもとでどのように映像化されたのだろうか。

落書きでいっぱいのワーナーブラザーズのロゴマークがスクリーンに映し出される。それに続くファースト・カット。オオカミのぬいぐるみを着た少年マックスが、愛犬を追って雪崩のごとく階段を駆け降りてくる。原作ではたった1枚の絵にすぎない場面が躍動感たっぷりに描かれるシークエンス。それは光に満ちた少年の一日のはじまりだった。僕らはこれらの映像とともにマックスの心の瞳と視界を同じくする。その天気模様はころころと変わる。喜びは心に浮力を生じさせ、逆に哀しみは心に湿り気を与える。ほら、たとえば、今だって。ゲラゲラと笑い転げていたかと思えば、マックスの状況は一転。年頃の姉からは相手にされず、母は仕事で部屋にこもりきり・・・。

夜になるとマックスの感情はついに爆発する。彼はたった数十秒間のうちに家を飛び出し、ぐんぐん走って、船漕いで、大航海を体験する。

そしてぐんぐん進んで、

たどり着いたその島は、

"Where the Wild Things Are"
(かいじゅうたちのいるところ)

Wherethewildthingsare
そこでは自分の感情をうまく処理しきれない怪獣らが身を寄せ合って暮らしている。単なる着ぐるみかと思いきや、彼らの表情は「はを がちがち ならして、すごい めだまを ぎょろぎょろさせて、すごい つめを むきだしに」(原作より)するほど手の込んだCG処理によって刻一刻と動いている。じゃじゃ丸やピッコロがよりリアルな感情表現を手にしたような案配。彼らの背中にはチャックやYKKの文字などありえないのだ。

「王様がやってきた!」と大はしゃぎし、朝起きて夜が更けるまでマックスと遊びまわるかいじゅうたち。原作では言葉が消滅し、絵のみで綴られるこれらのシークエンスはスパイク・ジョーンズのイマジネーションが炸裂する見せ場といえるだろう。

Where_the
加えてジョーンズは、センダックが読者に託した物語のディテールに、独自の感性で補強した精神分析学的な血肉を匂わせる。決して説明的に陥ることがないこれらの描写は、心のベールを一枚めくり、いつまでも母親の胎内に引きこもっていたいマックスの深層心理に潜航する。

その、まるで鏡に映ったふたつの像を見比べるかのような、マックスと“怪獣たち”の共振性に目を奪われずにいられない。表向きは獰猛、しかしその内側には張り裂けそうな想いを抱えたふたつのモンスターたち。

はたしてあの怪獣たちは何者だったのか。

マックス周辺の大人たちの投影?それともマックスの分身?

少年の目線で語られる本作に明確な答えは存在しない。いやむしろその手掛かりは、僕らの記憶にこそ堆積しているのかもしれない。マックスのみならず我々だって、幼い頃、少なからずのかいじゅうたちと遭遇してきたはずなのだ。そして彼らと過ごすことで、自分のことをちょっとだけ高みから俯瞰できた一瞬が必ずあったはずだから。

そのときのかいじゅうたちは、いったいどんな姿をしていたんだろう。そして僕らは、いつ、どうやって彼らに別れを告げ、あの島を脱出したのだろう。

「いかないで。 おれたちは おまえのことが たべちゃいたいくらい すきなんだ」

かいじゅうたちがそう引き止めるのを振り切って、いつの間に、
こんなにも島から遠いところで、めっきり歳をとってしまったのだろう。

そういうことを考えてると、この原作が子供のみならず大人をも魅了してやまない理由が分かったような気がしてきた。

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映画『かいじゅうたちのいるところ』の音楽は、Yeah Yeah YeahsのボーカルKaren Oが手がけています。予告編で流れていた曲はカナダのThe Arcade Fireの"Wake Up"という楽曲。この映画のために新録されたものの、本編では使用されていません。サントラにも収録されていないので、そちらが気になった方は、彼らのアルバム"Funeral"をチェックしてみてください。

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