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2009/11/25

カールじいさんの空飛ぶ家

今年もディズニー/ピクサーの最新作がやってくる。頑固じいさん孫三人、じゃなかった、『カールじいさんの空飛ぶ家』の冒頭10分間に、滂沱の涙が流れた理由―。

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原題は"Up"。このハリウッド史上最短級の単刀直入なタイトルが、ガンコじいさんの胸に去来する様々な想いを大空へと向かわせる。それは行き場を失った彼があたかも天に召されるみたいで多少ドキッとするが、だからこそ旅の道連れとなるボーイスカウト少年はカールじいさんと地上とをかろうじて繋ぐ不可欠な存在なのだろう。と、ここまで書いて、これは『グラン・トリノ』の感想だったかな?と読み返してしまう自分がいる。

ウォーリー』の脚本を手掛けたピート・ドクター監督は、本作のオープニングでも鮮やかに言葉を消失させる。カールじいさんが幼なじみの妻と歩んだ人生最良の日々とその別れをサイレントで綴り、シンプルゆえ誰の人生にも呼応しうるその繊細な表現は観客の心に大粒の涙を降らせる。残されたのは風船を手に持ったじいさん、ただひとり。かつてディズニー/ピクサー作品でこれほど率直に“死”を扱ったことがあっただろうか。

加えて見どころなのはアルベール・ラモリスの『赤い風船』を彷彿とさせるあの無数のバルーンの、まるで色とりどりの無数の新芽が一斉に吹き出したのようなお披露目シーンだ。いよいよ浮力がみなぎり、自宅がふわり浮上していく瞬間の羽毛の先端にも似た絵ざわりは、まさに「アニメ=CG=技術」を超えたアニメーターたちのアーティスティックな腕の見せ所といえよう。

中盤からは転調。冒険譚はアメリカ開拓史のようにも、あるいは行方不明の誰かを追いかけた『地獄の黙示録』のようにも変貌していく。もちろんファミリー向けの範疇でこれをやるのだから、濃厚な原液を薄める所作にも余念がない。

それから、次々と飛び出してくるキャラクター(人間だけとは限らない)がそれぞれ一人ぼっちの孤独な存在で、彼らがタッグを組むことで次第にファミリーの絆が育まれていく…ってのもハリウッドの王道といえば王道なわけで。

総じて気付かされるのは、他スタジオならば実写でも映像化可能な題材を、本作はあえてアニメーションの視座に基づいて具現化しているということだ。

もはやアニメーションは「この手法でなければ描けない世界」を視覚化するツールにとどまらず、皆の前にひとしく広がった世界を見つめる、ひとつの視座の域にまで到達しているのかもしれない。ディズニー/ピクサーとして培ってきた作家性とブランド=歴史こそがその作法を可能にしているのは言うまでもなく、これからも彼らの作品はジャンルを超えて視座を広げていくことだろう。

ちなみに、本作に登場する不思議な犬“ダグ”は今年のカンヌ映画祭にて最も優秀な映画犬に送られる「パルムドッグ賞」を受賞している。間抜けなようで(失礼!)実は偉大な犬なのだ。これからご覧になられるかたはぜひ敬意を持って接してあげてほしい。

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ディズニー/ピクサーの次回作は『トイ・ストーリー3』(日本では7月公開予定)。いったいどんな世界を見せてくれるのだろうか?

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