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2009/11/01

アンヴィル!

イギリス滞在中、たまたま立ち寄ったHMVにて「イチオシ新作DVD」として激プッシュされていたのが、この『ANVIL アンヴィル』だった。いい歳して胸元から体毛を大胆に覗かせたパッケージが印象に残り、まさかそれからきっちり10日後、試写室でこの映画を目の当たりにすることになった自分が泣くだなんて思ってもみなかった。

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『アンヴィル』はヘビメタ・バンドのドキュメンタリーだ。といっても悪魔の格好で「がはは」と高笑いしてみたり、悪ノリしてギターを打っ壊したりといった売れ筋のパフォーマンスは一切なし。カナダ出身の彼らは多くの関係者に「あいつらは凄い」と言われながらも、屈折30年、いっこうにブレイクすることなく生きてきた。半労働・半ヘビメタ。昼間は生きるために地道な労働に身をやつし、夜にはライブハウスで轟音を奏でる。彼らには妻も子供もいる。決して豊かな暮らしはできない。しかし家族は、大黒柱が音楽なしでは生きられないことを百も承知だ。頭での理解を越えた運命共同体的な暮らしは、思いのほか穏やかで愛にあふれている。

こんなにも一生懸命に生き、同年代のミュージシャンたちからそれなりの尊敬を集めてきたのに、彼らはなぜ報われなかったのだろう。

この映画にはマイケル・ムーアの『キャピタリズム』のような小難しい議論はいっさい登場しないが、それと同じ視点を音楽業界のレベルで投影させる。つまりこの資本主義社会においてはレコードの売り上げ枚数でアーティストが価値判断され、音楽的才能を問わず音楽会社がイメージ戦略しやすいバンドだけが既存の流通システムにうまく乗っかって販売されていく。その対極にいるのがアンヴィルなのだ。

面白いのは、アンヴィルも誰かが声さえかけてくれればその気流に乗って上昇していく心構えはあったらしい、ということだ。しかし幸か不幸か、30年後、そこにはなんら資本主義的な侵食を受けることなく育まれてきた彼らの剥き出しの音楽だけが残っていた。

普通ならこんな境遇で5年も虐げられればバンドなんて意図もたやすく解散してしまうだろう。しかし幼少時代からいつも一緒だった中心メンバーのふたりは、互いの友情を確かめ合うかのように、30年後の今も共に音楽を奏で続ける。それは彼らにとって呼吸にも等しい、ごく当たり前の反射運動だったのかもしれない。

逆説的にはこうも言えるだろう。もしも彼らが初期に成功をおさめ、時代の寵児となっていたら、いまの友情はあり得ただろうか、と。

Anvil_2
そもそも、いまの資本主義における音楽産業っていったいなんなのだろう。資本の流れをよどみなくするために、マーケティングの手法により編み出された“心地よい”音楽だけを再生産し続ける延長線上には、リスナーの感性を開発することに行き詰った、CDの売れない“音楽不況”が待っていた。またこのような物流システムの途上で「音楽好き」を自負したりもする我々ユーザーも、自分自身の画一化された趣味嗜好についてあたまを傾げてしまうことも多い。

その混沌のなかで『アンヴィル』は唯一の希望を提示する。激変する業界の構造のなかにあって、彼らの友情だけが普遍であり、彼らは変わらずギターを、ドラムを奏でているのだから。

僕らは日々、知らず知らずのうちに何らかのシステムに絡み取られて生きている。この映画だって例外ではない。海外の映画祭で大変な人気を博したからこそこうやって日本へ流通してきたわけだ(しかし日本の映画会社はヘビメタというジャンル、そして“アンヴィル”の知名度の低さゆえ、どこも尻ごみしたであろうことは想像に難くない)。

彼らの音楽は30年間、一向に認められなかった。が、しかし彼らのストーリーはいまこうして、アートとしての血肉を手に入れた。僕らはこの『アンヴィル』によって、売り上げ枚数やヒットチャートによって数値化されない“至高の存在”があることに気付かされ、予定調和で息苦しくなった世の中に“別の出口”を見出すことになるだろう。

その意味で『アンヴィル』は最高に気持ちのいい映画だ。客席の暗闇から外に出たとき、久々に眩暈を感じた。僕の身体は上映中すっかり体温が上昇し、冷ますのにずいぶん時間がかかった。

どうすればあのように生きられるだろう?

そして、どうすれば、あのようなホンモノを見出せる目が培えるだろうか?

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