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2009/12/09

キャピタリズム~マネーは踊る~

原題を"Capitalism:A Love Story"とし、これを自身が手掛けた初のラブストーリー、しかも悲哀として位置付けるマイケル・ムーア。もはや彼をフェイクスターと呼ぶ者はいなくなった。が、しかしこのイデオロギーの化け物を彼はいったいどう料理しようというのか…。

Capitalism_a_love_story

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タイトルに「資本主義」と掲げた時点でムーアの挑戦は始まっている。

何も恐れることはない。この世の中で多くの国・人々に尊ばれる民主主義、自由主義の原則に基づくなら、学術書や経済番組でなくとも市民の立場で「資本主義」について語ることは自由なはずだ。与えられた弁論時間は2時間強。その間、何人たりとも異論を挟むことは不可能となる。この強みこそ映画というメディアの最大の武器なのだから。

はたしてムーアが『ロジャー&ミー』を撮ったとき、これほど世界中の多くの観客が彼の言論に耳を貸しただろうか。『ジョン・キャンディの大進撃』は?『ボーリング・フォー・コロンバイン』は?『華氏911』は?『シッコ』では?

こと日本の観客にとっては対岸の火事だったムーアの言論とアメリカの現代(いま)は、ついにこの『キャピタリズム』において惑星直列のごとく世界と繋がった。グローバリズムの負の側面がもたらした弊害によって火の手は世界中へと広がり、多くの歴史上の予言者がそうであるようにマイケル・ムーアもまたその悲劇を止めることはできなかった。

では僕らはなぜ『キャピタリズム』を観るのか。彼は何も小難しい経済用語を持ち出してチャートを用いながらキャッシュフローの説明などしてはくれない。

その代わりに経済専門家の何言ってんだかさっぱり分からない説明に対して、観客を代表して率直に「何言ってんだかさっぱり…」って表情をしてくれる。

また冒頭には「サブプライム・ローンの影響で支払いが滞り、今まさに執行人がチャイムを鳴らし、家人を追いだそうとしている姿」を生々しく映し出し、これが現実なんだよと伝えてくれる。

僕らが知ってるつもりで、実は何も知らなかった資本主義の末端部分に彼はあえてカメラを向ける。スポンサーの影響下にある大手メディアが決して映さない“ごく当たり前の風景”を直視することで、観客と共にとことん「現場主義」を分かち合おうとする。彼の持ち味であるユーモアを駆使しながら。

そこで、彼の作品についてよく言われる「問題を単純化しすぎる」という意見を思い出した。

その指摘は逆説的に二つの意味で的を得ているのかもしれない。ひとつには、実際に資本主義の末端で巻き起こっている悲劇は非常に単純明快であるということ。ふたつにはマイケル・ムーアの映画は決して具体的な政策を論ずる性格を帯びていないということ。

さらに言えば、彼の映画はたとえば「資本主義」をテーマとして掲げながらも、最終的には観客の最大公約数的“コモンセンス”の範疇に向けて訴えかけている。これをヒューマニズムという言葉で置き換えることも可能だろう。

120分という持ち時間で、観たこともない(知っていると思い込んでいた)映像を散りばめ、観客のヒューマニズムに訴えかける―

これは映画が生まれながらに持ちえたエンタテインメントとしての基本構造と同じだ。そしてこれらはドキュメンタリーのみならず、あらゆるジャンルのフィルムメーカーが名作誕生を夢見て調合する魔法の原料である(その多くが生成過程で失敗を喫するゆえ、名作と呼ばれるものが少なくなるわけだが)。

その法則にのっとって形づくられているからこそ、ムーアの映画は観客の心を劇映画以上にエンタテインし、カタルシスにも似た後味と、あと観賞後に観客の背中を後押しする勇気をもたらしてくれるのだろう。

かといって資本主義が人生の目的ではないように、映画『キャピタリズム』も主役などではありえない。マイケル・ムーアにとって本作は“作品”というよりも“通過点”にしか過ぎないのだし、観客がこの映画だけに充足していても現実問題はなんら愛を返してくれない。

ゆえにこんな映画のレビューなんて破り捨てて、僕らはもっと外へ出なければ!

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