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2009/12/12

倫敦から来た男

London_2 
この映画について僕が語れることは本当に少なく、いまだにあの140分は何だったのかと自問しているところだ。

なにしろ冒頭の数分間、カメラは船の舳先を舐めるように映し続ける。おいおい、こんな実験映画はごめんだぜ、と席を立ちそうにもなるものの、もういちど冷静になって観てみると、カメラは徐々に下から上へと動いており、これがどうやら誰かの視線だったことに気付くのだ。

物語は港が見渡せるガラスの制御室ではじまる。線路の切り替え作業に従事するごくありふれた男が、たまたま目撃した殺人事件。そしてたまたま手に入れてしまった大金。非日常はこうして突如切り開かれた。昨日までの彼とはまるで違う。その心理が辿る道程を、光と闇とがせめぎ合うモノクロ芸術を駆使しながら描いていく。

もしかするとこの映像を自宅のモニターで観ても、まぶしすぎる光と暗すぎる闇に色がつぶれ、結果的に作品世界で何が起きているのか視覚できないかもしれない。

はっきり言ってしまうと、タルコフスキー作品と同じく、慣れない人にはレム睡眠にも近い体内温度に感じられることもあるだろう。しかしまどろみに耐えながら見つめ続けていたスクリーンに、ふと映像と心理がシンクロし、何か魔物に連れさらわれたかのようなざわめきを覚える瞬間が幾度となく訪れる。これはタル・ベーラ作品に触れた誰もが体感する副作用のようなものだ。

どうか熱くて苦いコーヒーを片手に、感覚を研ぎ澄ませながら戦ってほしい。エンドクレジットへ暗転した瞬間、「完走した!」という感激が全身を貫くことだろう。

そして、気がつくとあなたも、「あの140分はいったい何だったのか…」などと、他人にとうとうと語る人間へと成り果てているに違いない

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