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2010/01/27

イエローキッド

「ホーガンズ・アレイ」については前に「アメリカン・コミックス大全」(小野耕世著/晶文社)で読んだ覚えがある。新聞掲載漫画の元祖であり、はじめはカラー発色を試すイラストだったはずが、やがて爆発的な人気を得るようになった(と記してあった)。

これがその漫画の主人公「イエローキッド」である。ほら、こんなに可愛らしい。

Yellowkid_2 Yellow_kid__4

バットマンやスパイダーマンをはじめ、人気アメコミが原作者を離れ新しい描き手のもとで新機軸を立ち上げるのは有名な話。映画『イエローキッド』には先述したアメコミの続編を手掛ける(という設定の)漫画家が登場する。

彼の名は服部。彼は日本で、なぜかこのアメコミの主人公(幼児)を勝手に少年へと成長させ、少年ジャンプもビックリの格闘マンガの主人公へと仕立てた経歴の持ち主だ。

この、ある種の“横暴さ”にとてつもなく惹かれた。胡散臭さというか、出鱈目さ。芸大大学院の卒業制作である本作は、このアメコミ風のカラー原稿を取り込むことで、それこそ「フィルムの発色の良さを確認する」かのように、卒業制作としては珍しい極彩色のポップな質感を獲得している。この時点で真利子哲也(まりこてつや)監督の作戦勝ちである。

そして『イエローキッド』にはもうひとりの片割れの存在が。

プロボクサーを目指す青年・田村は、祖母を介護しながら、今にも崩れ落ちそうなボロボロのアパートに暮らしている。喧嘩っぱやくバイトもクビになった。頼れるものは祖母の年金のみ。体内に溜まったやり場のない怒りを拳に込め、サンドバックに叩きつける。彼にとってボクシングは先の見えない毎日の唯一の生き甲斐のように思える。

そのきっかけを与えたものこそ、一冊の漫画。
かつて服部が手掛けた格闘漫画「イエローキッド(少年編)」だった。

そんな作者と読者とがいま奇しくも出逢いを遂げた。互いの心が反響しあう。漫画と現実がシンクロする。そうして運命は勢いよく動き始めた。とめどない暗黒面にむかって・・・。

『イエローキッド』の観賞は、評価の定まった海外の傑作をうんうん頷きながら見つめる確認の作業とは一味違う。目の前に広がった不気味な世界を頭がどう処理していいのか。玉石混合の世の中でこれは玉なのか石なのか。観客は試行錯誤を繰り返しながら真剣なる品定めを余儀なくされる。その過程も含めて、新鮮なる暗中模索エンタテインメント。

そもそも冒頭5分のシャドーボクシングに始まり、どん底の人生にさらなる追いうちをかける悪ガキどものあんまりな仕打ちに人間が俄かに豹変する姿を目の当たりにし、スピード感は容赦なく更に増し、何かが思い切り振り切れた瞬間、この映画はフィクションとリアルの境界線さえも勢いよくスパーン!と飛び越える。このカタルシス。

事態はどんどん悪化するのにこんなにもドキドキさせられるのは、ストーリー、演出、演技にまったくもって底がないどころか、逆にどんどん手の内に隠し持ったアイディア袋が無尽蔵に膨張・進化しつづけるのを感じるからだろう。この不気味さ、そして闇の濃さは僕らにとって幸福でもある。

不況不況で映画は元気がないと言われるが、多くの映画人や映画ファンは『イエローキッド』によって体内の震度計が振り切れるのを感じるだろう。新たな才能の出現に不況も好況も関係ない。そしてこの映画体験を誰かに告げずにはいられなくなる。

『イエローキッド』はそんな映画だった。

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